王妃様が直々に質問をされるようだ。
夜着をお召になられているようで…
どこを見て良いのやら…
困り果ててしまった。
緊張しすぎて吃音が酷くなる、言いたいことの半分も話せない…
ーそなた、チェ・ヨンと一緒だったのか?
ーさ さようで…
王妃様は幾分怒りを抑えていらっしゃるようだとテマンは感じた。
ーキ・チョルはすぐに医仙をひきわたしたのか?
ーはい。しかし…
ーチェ・ヨンと医仙は、キ・チョルの命で江華島へ?
ーはい、ですが…
ーなぜじゃ?チェ・ヨンはキ・チョルの手先か?
ーち ち 違います!!
ーでは なぜ キ・チョルの命に従った?
王様は大丈夫だろうか…
まさかチェ・ヨンがキ・チョルの…!?
ーそれは……あっ…その……
あ~~~~~~~!!なんで俺ちゃんと喋れないんだよ!!
誤解されちゃったじゃないか…どうしたらいいんだ?
隊長には秘密の任務だからと言われて居るから誰にも話せないし…あ~~~~~~~!!もう…
ーもうよい、 下がれ
王妃様~~~違いますから…
王妃は寝室へ下がってしまった。
3人で顔を見合わせ…
チェ・尚宮がチャン先生に目配せをした。
はぁ~私ですか…
ー事情があるかと…
医仙を巡り府院君が脅したとも考えられます。
ー私もそう思います。慶昌君様を治せなければ…医仙を処刑する。医仙を助けたくば病を治せなどと…
チェ・尚宮が話し終える前に…
ーどうでも良い。聞きたくもない。
王妃が淋しそうに言った…
ー王妃様、チェ・ヨンは仕方なく…
ーチェ・ヨンの立場など知らぬ。不利な者の肩を持つより責める方がずっと容易く面白かろうに…
王妃は誰を思って嘆いているのか…
チェ・尚宮にはまだわからなかった。
同じ頃、チェ・ヨンは切っても切ってもなかなか減らぬ敵と戦っていた。
次から次にあらわれる。
火手引もまだ後を追って来ている。
一気に周りに居た者達を切り捨てがむしゃらに走った…
早くあの方のところへ参らねば…
心細い思いをされておるやもしれぬ。
誰もあちらへ通しておらぬからキ・チョルの手の者達からは追われてはいない筈だ。
馬の糞を見つけた。この辺りに居よう…
雨足が激しくなってきたが、ねっとりとした返り血は落ちなかった…
火手引が黙家の刺客達を連れ、先程チェ・ヨンが戦っていた場所へ追い付いた。
『探せ!探すのだ!』
『はっ!』
ーちっ、逃げられたようだ…兄者に何と言おうか…
ポタポタとあちこちから、雨漏りがしている小屋の中で慶昌君様は眠っていた。
ウンスはどこからかお椀を見つけて雨漏りしているところに置いていた。
ーうっ!冷たい…雨漏りだらけね。
寝台に腰掛け、慶昌君様に毛布をかける。
はぁ~…自分でも気付かないうちに深い溜め息が出た。
ーあの人は大丈夫かしら?
あんなにたくさん敵が居たんだもの。
あの人が誰よりも強い事は知ってるけれど、つい先日死にかけてもいるというのに…
お願い…怪我などしないで…どうか無事で
居て。また私を見て…深く黒いその瞳で…
ウンスは、チュホンに藁を与えていた。今がどういう状況なのかわかってはいたが、あまり深刻に悩んでもどうにもできるものでもない。なるようになる。ケ・セラ・セラよ、ウンス。そう思ったら、気が楽になり気付くと鼻歌を歌っていた。
んん?誰かいるの?
チュホンの背に結わえてある小刀を抜いた…辺りを見回してみたが誰もいない。
ー気のせいかしら?雷が光った。
『雷だわ!あ~~』
刀を戻そうとするとやっぱり何かの気配がする。あの人かしら?
でも違ったら?声は出せない…
振り向きざま、小刀を振りかざすと…
チェ・ヨンに小刀を持った手を掴まれ、くるっと回され自分の首にその小刀が…
目の前に彼の顔がある。はぁ、無事で良かった。彼に見つめられて胸が苦しくなる…
ー全くこのお方ときたら、追われておるというのに鼻歌など歌って…
この明るさはどこから来るのであろう。
天のお方は皆こうなのだろうか?
でも、その明るさに救われる…
『誰かも確認しないで刺すのですか?』
『あっ あなたなら私はかなわないでしょ?』
『自信がなかったら刺すこともよしてください。刀は、主人と敵を見極められないから。』
ー間近でこの方の香りがする 。ずっと嗅いでいたい…ほっそりした白い手首から熱が伝わる。
ウンスはホッとして、彼の声が聞きたくて喋りまくった。
「なんで、こんなに遅かったの?」
ー当たり前だ…あれだけの敵と闘って馬で私たちが走った道を駆けてきてくれたのだ。ありがとう…
「ところでよくここが分かったわね?ほんと不思議。私が馬も中に入れといたの。バレると思って。良くやったでしょ?ところであそこに糞したら…大きな雷」
ーはぁ~この方は黙るってことがない…
チェ・ヨンは慶昌君のご無事を確認し部屋を見回す。取り敢えず危険はなさそうだ。
雷の光でチェ・ヨンの顔がはっきり見えた。
「はっ!怪我したの?見せて!」
「私の血ではありません。」
「はぁ~~…拭いて」
そう言って布を放り投げた。
布を取ったチェ・ヨンは慶昌君の方へ近づこうとすると…
「あっちに行って!この子が起きるでしょ?」とウンスに押された。
「子ですって?誰に向かって!?」
ー全く…この方にかかれば慶昌君様も普通のお子に見えるのだろう。いたしかたないとはいえ…
ー私たちを守る為にたくさんの血を流してきたのよね。私ったらもっと他に言い方なかったのかしら。だって心配が怒りに変わってしまって…ごめんね。
ウンスは苦しげに寝ている慶昌君の頭をそっと撫でた。
チェ・ヨンは仕方なく壁際で座り手を拭い、顔に付いた返り血を拭いた。
その時雷がウンスの横顔を照らし出した…
ー美しい…単純にそう感じた。
誰かを美しいなどと思ったのは初めてだ。
細くはかなげなのに、人一倍輝きを放ちながら力強く生きている。いきなり天から地上に連れて来て、戦いの中に俺が放り込んでしまった…
何があってもこの方をお守りせねば。
チェ・ヨンはウンスの美しい横顔を見つめながら改めて、そう誓った。

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