昨日は朝から札幌でのお仕事のため
バスに優しく揺られての移動。
札幌で仕事かぁ…
20年前のわたしには到底考えられない毎日を
わたしは今、送っている
*
23から25歳までの間
とてもお世話になった人がいる
昨日はバスに揺られて
何故か思い出した人
食堂のような
喫茶店のような
ちょっと不思議なお店で
わたしは縁あって働いていた
「マスター」と呼ばれていた社長は
強面で
アパートを何棟も経営し
車屋さんをやりながら
飲食店も経営する
会う前までは
怖くてちょっと嫌煙しちゃうような
そんな人だった
*
23歳の時
そのマスターにひょんなことから拾われて
わたしはその店で
ウエイトレスになった
ウエイトレスといっても出前もする
その出前がまた変わっていて
ラーメン一個運ぶのに
マスターの最高級のクラウンに桶を乗せて出前に行った
毎回ラーメンがこぼれて汚したら
マスターに殺されるんじゃないかとビクビクしながら運んでた
結局怒られるどころか
毎回「ありがとよ」と言ってくれたっけ
「みや。お前に車、貸してやる」
そう言って車屋も経営していたマスターは
ホンダのインスパイア→車種、懐かしい
一台、無料でわたしの車になった
その借りた車が停車中にぶつけられて壊れた時も
マスターは全く怒らずに笑って許してくれたっけ
大雪で遅刻した時も
マスターは大きな除雪機でその日にわたしのアパートまで来て
駐車場の雪、全部除雪してくれてた
お店が終わってからは
二人で毎日ご飯を食べに行った
わたしが財布を出すことなんて当たり前のように一度もなく
毎日マスターの店と
夜のバイトの掛け持ちで
ヘトヘトになってるわたしの愚痴も悪態も
マスターは目尻を下げてご飯を食べながら優しい顔で
いつもの瓶ビール飲みながら
「お前ってやつは(笑)」
そう言い笑いながら
聞いてくれてたっけ
*
そんな摩訶不思議なお店をマスターが急に閉めることになり
わたしのウエイトレス時代も幕を閉じた
マスターの店を卒業してから一年程経ってから
久しぶりに会ったマスターは
少し小さくて
少し震えていたように見えた
程なくして
大好きで怖かったマスターは
天国へと旅立っていった
朝から晩まで仕事漬けで
毎日愚痴か文句しか言ってなかったわたしを
お父さんみたいに
目尻を下げて優しい眼差しを届けてくれたマスター
あれから20年経って
わたしは自分の好きな仕事をして
札幌にまで
お仕事で行けるようになったよ
なったんだよ
どうして急に思い出したんだろ
行きからずっと考えていた
きっとこの
優しく揺れるバスの振動が
あのときのマスターの眼差しに
似ているからだ
*
あれからたくさん色んなことがあって
マスターのお墓にも行けてないけれど
わたしはマスターのこと
度々思い出してはニヤけてる
マスターと仲良すぎて
再婚した奥さんに激しく嫉妬されてマジで困ったこと
マスターが怖すぎてUCCウエシマの営業さんが毎回ビビって腰が引いていたこと
ヤンチャで暴れんぼうの裏側が
繊細で誰よりも
誰よりも優しかったこと
マスターが
わたしを見るあの眼差しを
わたしが今度は人にする番
この振動のように優しくあたたかい
深くて根拠なく安心できる感じを
わたしも届けていけるように
頑張るね
大好きなマスターへ
今ならきっと
もっと「大人同士」の話ができたね
43歳になった
たかさかみやより
