

夫が昔からお世話になっている
あるご婦人は 美しい白髪の70代
美しくて品があって
深い思いやりをお持ちの方です
ここ数年は 私もよくしていただき
夫がいない場でも
お話をする機会が増えました
数ヶ月前…
車でご一緒したときのこと
「 ちづさん 本は好き? 」と
訊いてこられました
「 大好きですよ 」と答えると
少女のように目をキラキラさせて
次のようにお話されるのです

『 あら~ 良かったわね~
セイ
ちゃん(私の夫)も
本が好きだものね
私 ときどき セイちゃんと
本の貸し借りしているのよ
うちもね
夫婦で本が好きなの
夫婦で一緒に電車に乗っていても
それぞれで本を読んだりしているわ
あら
ちづさんとセイちゃんもそうなの?
夫婦で本が好きって
いいと思うわ~
好みのジャンルが違っていても
そんなことは いいのよね
』

私は 楽しくご婦人のお話を
聞かせていただいていました
この方と 私の夫が
本の貸し借りをしているのも
初耳で面白かったし
本を愛する気持ちが
この方の品格を作っているのかな
なんて 憧れてみたり…
よほど本がお好きなのでしょう
まだまだ ご婦人のお話は続きます

『 今 読んでいる本がね
と~っても 面白いの!
もうね
読み終わるのが勿体なくて
ゆっくりゆっくり読んでいるのよ
読んでいるうちに
主人公の気持ちになっちゃうのよ
読み終わったら
ちづさんに貸してあげるわ
読んだことあるかしら?
ハンニバル
』

え
ハハハハハハハ ハンニバル??
読んでないけど 知ってますとも
映画は観たんです
その前後作の 「羊たちの沈黙」も
「レッド・ドラゴン」も観ました
映画「ハンニバル」は
私が観た映画の中では
「グロテスクNo.1」の作品です
フィレンツェでの殺害シーン
クライマックスの晩餐シーン
これらが今も脳裏に焼きついて
物語はほとんど覚えていないのが
正直なところなのです
優しくて 美しくて 品のある
70代の女性が この小説を
「面白くて ゆっくり読んでいるの」
「レクター博士の気持ちになるの」
と おっしゃる光景こそが
まるで 怪奇小説のようでした
私は 読みながら
「面白いけどコエ~ 気色悪~
」
と思うばかりでしたが
人生経験豊かな貴婦人は
主人公の複雑な深層心理から
何かを深く読み取るのでしょうね

ハンニバルに挟んであった
Chloeのロゴ栞と料理記事の切り抜き
猟奇的な小説を堪能するご婦人の
日常生活の優しさと穏やかさが
伝わってきてホッとしました(笑)
次は「 海辺のカフカ 」を
貸してくださるそうです
