「The Shoe Project」をご存知でしょうか?
私は知りませんでした。
2011年にカナダ人の作家、Katherine Govierによってはじめられたイベントで、移民女性に彼女たちのストーリーを語ってもらうというイベントです。始まったのがバータ靴博物館(The Bata Shoe Museum)だったこともあるのでしょう、彼女たちの物語は彼女たちの靴を通して語られました。
詳しいイベントの内容はこちらのサイトでみられるようです。いくつかのストーリーもサイトのどこかで紹介されているらしいです。
前置きが長くなりましたが、3月8日の国際女性デーにうちの会社で「The Shoe Project」がありました。例のがっかりしたイベントもこの国際女性デーを中心に社内で1週間にわたって行われた国際女性週間のイベントの一つでした。
前回のパネルディスカッションはがっかりだったのですが、今回は実際にカルガリーでThe Shoe Projectを運営している人たちが来てくれるというので期待できました。
今回来てくださったのは4人の移民女性たち。出身地も様々(カメルーン、フィリッピン、シリア、イラン)ならば、象徴となった靴も、彼女たちの物語も様々でした。
その中で私の中で深く印象に残ったのがシリア出身の「アヤ」さんという女性でした。彼女はとても若くて少女のような雰囲気で、見た目からは「大学の新入生」といった感じ。イベントが始まる前にシリアの民族楽器のウード(ˁūd)を演奏して異国の風を会議室に吹き込んでくれていました。哀愁漂う音色でしたが、それを奏でる彼女があまりにも若く華奢で美しかったからでしょうか…音楽好きの大学生に見えたのでした。
彼女の話は紛争のシリアから始まりました。紛争がますます激しくなり、彼女が国を出ることになったところからです。
仮に数日のうちに、持ち出す荷物を決めなければいけなくなったとき、そしてそれが手に持てるだけ…スーツケースに1-2個となると、あなたは何を持ち出しますか?
私がカナダに来た時、私の荷物はスーツケースに1つでした。違いは私には1年間の準備期間があったこと。その間に処分するもの、実家に残すもの、持っていくものを選択できましたし、何よりも私はカナダ滞在は1年間の予定でしたから、持ち出すものは日常で必要なもの。実家に預けるのは大事なもの、でした。
アヤさんの場合は残すものは失われるもの。国に帰ってくるかはわからない、そんな状況にありました。
あなたなら何を持ち出しますか?「私はドレスとパンプスを持ち出しました。たとえドレスが重くて嵩張って、スーツケースを一派にして他に何も入れることができなくなるとしても、どうしてもそのドレスとパンプスを諦められなかったのです」
そこで会場にはちょっとした笑いが起こりました。彼女の少女っぽい雰囲気からきれいなものを諦められない女の子の印象があったのかもしれません。
「当時、私の婚約者はレバノンに避難していました。私も一緒に行く予定だったのですが、レバノンの状況も悪くて私が来るのは危険だということで行くことができなかったのです。家族と離れ、親せきと離れ、友と離れ、故郷を離れ、私の唯一の希望は彼と一緒になることでした。そのための象徴であったウェディングドレスとパンプスをどうしても諦められなかったのです」
泣きそうになりました。
「最終的にカナダが私たちを受け入れてくれることになり、私たちはカナダで結婚しました(ここでウエディングドレスを着て彼とともに微笑む彼女の写真がスライドにでました)。」
彼女の話はさらに続きました。カナダに来てからも孤独感に苛まれたこと。ウードなどの音楽を通して新しい友と出会ったこと、娘ができて、再び「家族のつながり」を一から築く力がわいてきたこと…。
もう彼女が小さな少女のようには見えませんでした。様々な経験と感情を乗り越えてきた、美しい女性の姿がありました。
イベントの後で「私なら何を持ち出すだろう?」という質問が頭を離れなくなりました。
「すぐに使えるもの」「生活に役に立つもの」「希望の糧となるもの」「思い出の品」
あなたなら何を持ち出しますか?