どうやら目標はこの砂浜至近にあるらしかった。砂地では戦車の移動にかなり支障がでる。しかし、音波が伝わりにくいのが受動探知に一長一短となる。
ユーキが声を上げた。
「受動探知機に接近する車両反応確認、アレス機です! ただなにかおかしいな……あれ、アレスは無事ですが、後方に敵戦車の群れ、これは……五百両以上!」
「圧倒的多数だ……アレスは人質か?」
鋭く問うアーサーに、ユーキは冷静に答えた。
「それにしては妙です。こんかいは敵すべてに生命反応!」
「しかしいままで、敵兵など一度も……」
長距離通信が入った。基地からレンチェルノ大隊長だ。
「一介の下士官兵が、軍務に口を挟む権利は無いのです。一階級差は決定的。命じられるまま配置につき、砲火を応酬すること。みなさんに指示はそれだけです」
「兵士の命など塵同然と?」
はっと嘲笑しタンは言い捨てた。アーサーが珍しく厳しく叱責する。
「口を慎め、新兵!」
第二中隊長のアヴィも意見した。
「現実は戦場で死ぬのは下士官兵ばかりよ。でも敗北した時責任を被り処刑されるのは指揮官。そしてダグア師団長は自ら最前線に位置し単騎のみで戦うわ」
「故に絶対の信頼を負っているのか……」
「なんにしても数の上では勝ち目はない」
「いや、ここは一方的に攻撃できる絶好の機会だ。全車、長距離砲撃用意! 迫撃を開始する。このまま先手を取れば、こちらが全滅するとしても敵の損害はその五倍は超す」
断言して攻撃を命じたアーサーに、タンは反論していた。
「味方全員死ぬのを承知で? 正気の沙汰か……」
「それが前線の掟だ! 決して無駄死にではない」
ここでユーキが叫ぶ。
「敵、能動探知機を作動! こちらが発見されました、火器管制装置に捉えられています!」
アーサーは反射的に命じた。
「しまった、手遅れか。散れ、総員全速退避!」
しかし襲ってきたのは、敵戦車五百両からの圧倒的な砲弾の嵐だった。
このまま死ぬに違いない、またも手も足も出ないまま……この屈辱の思いにタンは絶叫しながら最大出力で操縦していた。