衛生と調理担当が、まだ少年に見えるユーキ一等陸曹だった。つまり食事は彼が作っていてくれたのだ。
彼は肉玉子穀物のスープと、ハーブティーと酒を夕食にふるまってくれた。
もっともそのレシピはレンチェルノ一尉のもので、薬効があるものだとか。彼は一尉と階級は高いものの、肩書きだけで実戦指揮戦力は持たない。軍医だが。
アヴィ三尉も教官が主な任務だが、第二中隊長を兼任し前線勤務に回されるのが増えたとか。戦局の困難化を示すな。
戦車隊の第一中隊長はアーサー曹長、つまり下士官の最高位、実質現場で指揮を執る最高位の切り込み隊長だ。
というわけで、中隊の兵士の大半、五十名ほどが出席し、タンの入隊記念の宴会は静かに始まった。
タンはコクと風味ある極上の赤葡萄酒に酔いしれながら、聴いてみた。
「意外と非力そうな隊員が多いのだな。こんなんで戦えるのか? 武装蜂起側とやらと」
「いや、殺しはしたくないさ……誰だって。死にたくもないしね」
ユーキはそういうと、爽やかな香りの熱いハーブティーのマグをすすった。
「俺は戦うとあれば、どんな敵とも戦う! 死を恐れてはいない」
タンは断言していたが、アヴィが諭す。
「タン、貴方はずっといつも一緒にいたい存在のことをまだ知らないのね。たとえ運命が二人を引き裂いても、心は一つということ」
と、やおら扉が勢いよく開き、兵士が入ってきた。封書をアーサー中隊長に渡す。アーサーは書類に眼を通すやはっと、命じた。
「諸君、食事は中断。任務だ。出撃を命じる、各車両に搭乗せよ」
全員乗り込んだ。ユーキが当惑した面持ちで語るのが画面に映る。
「座標から消えた? ……哨戒任務中のアレス先任陸曹の車が?」
通信機超しのレンチェルノも悲しそうだ。
「行方不明か……だが、敵機に接触した気配はなかったのに。ここで問題なのは、敵は無人機を使っている事実だね」
タンの後ろのアーサーは肯いた。
「殺しには当たらないから、戦うに遠慮こそいらないが、命張る意欲も下がるな」
タンは一人驚愕していた。こいつら、なにを敵に回して戦っているんだ? 敵が生き物ではないなどと……
とにかく現場へ向かう、九両編成の二個小隊が出撃した。一両二人乗りだが、他に歩兵を二名ずつ分乗させての進軍である。
アレス ゆきえもんさま