病床生活は、ものの二晩で終わった。身体のどこも不具合は無い。
診てくれた医師はレンチェルノ一尉というらしい。
タンはお世話にはなったが異国にて不本意な虜囚、自分の現状を喜べる心境ではなかった。しかし病院食は格段に美味だった。
非武装の兵士が案内し、連れ出される。もはや戦闘機シックも手斧すらないタンは、自らの非力さを呪っていた。
病院から出ると、そびえたつ何十階建てという圧倒的な巨大な建物に囲まれていて唖然とする。すべてが防壁で覆われているかのようだ。まさに城塞。それがこのシント……人間と亜人、鬼が共存する理想郷……それとも絶望の監獄。
次いで厳重な武装衛兵詰める警戒の建物の、指揮官室へ通される。
長身痩躯な文官風な人間男性が、軍服を着込み椅子に座っていた。
「まず気を抜きなさい、タン。私は中隊長の浅尾曹長です」
「アーサー王?」
「まあ、それでもいいでしょう。機甲戦車十六両を率いています。前線では私が車長の砲手となるから、いきなりだがタン、きみには私の車両の操縦と通信を任せます。とりあえずきみは三等陸曹待遇となる」
「了解した、アーサー隊長。その程度は造作ない。戦闘機に比べれば車両の操縦など知れている」
と、見栄を張ったタンだが、事実は自信が無い。鈍重で動きを封じられたらたちまち棺桶と化す戦車なんて。とりあえず、前後進と旋回だけは知っていたが。それと通信に必要な知識も。
「性能と装備の確認を。中隊の戦車はケンタウロスという機種です」
タンは情報を閲覧した。戦車の前面装甲は敵戦車砲の一撃にすら耐えられる厚みだが、横と、背面はそうはいかない。特に底と上に対しては薄い。地雷を踏めば行動不能になるし、戦闘機の小口径の銃撃を受ければ容易く貫通し内部の兵士を即死させる。
これらを確かめるタンだった。
「計算機で偏差射撃ができるから、恐れることはない。敵の動きを予期しての精密狙撃だ。戦闘機でも真正面から迎撃し撃ち落とせる」
「それより、俺は誰と戦えと言うのだ?」
「きみの戦闘機が証拠です。シントから外部に漏れた最新鋭機……反政府派が武装蜂起した。それが敵です。きみたちの山、カッツ領ではない。安心しましたか?」