衛星軌道上を回る中立『黒色拍車』艦隊の病院船『平和の家』号内にて……
ユウキは職務をこなしていた。オレは家事ならお任せだ。調理、掃除、洗濯の他、送受信機・探知機・航法管制・火器管制らの各種オペレーターもこなしていた。
本意ではないのだが、対空機銃と操舵のシミュレーター訓練も数十時間受けた。初めてとは思えない良い腕だと、意外にも褒められた。どうせお世辞にしても、自覚はまるでないオレだった。興味ないから。
ところで先の戦闘で新たに参加を快諾してくれた、青年エリックと富豪の少女ロウとその若き執事ヨウとは、仲良くなっていた。みんなはオレの料理を美味しいと褒めてくれる。
戦争に駆り出される兵士の救難任務に就きながら、二ヶ月が経過していた。黒色拍車艦隊には、協力してくれる亡命艦が、連邦からもジオンからも出ていた。艦隊は三十隻近くまで増えていた。戦力強化だ。ここで。
ジオンの地球降下作戦が始まってから、戦禍が宇宙と地上双方に及んだので、艦隊を二つに割いて地上へ向かっては、との意見を女医師ウィッズはクラウンナイト提督に提案していた。
船長同士で闊達な会議があったらしい。戦力を分散するのは正規軍なら兵法に反するが、独立した中立艦隊ならではの利として、これは大多数の賛同で採択された。
主に単なる水が狙いだ。宇宙での反射質量としての推進剤と、核融合炉の燃料となるから。加えて衣糧をはじめとする、補給物資の調達か。
そういうわけで、空中飛行可能な七隻の艦は地球へ降下することとなった。
『平和の家』号は、空宇宙、海上いずれも対応にできている。その最たる護衛艦だった駆逐艦サイズの突撃強襲揚陸艦、『ランスチャージ』号は宇宙専用だから、離れ離れになってしまうが。代わりに小回りの利くロウの『青龍刀』機が護衛に就いてきてくれ、甲板に搭載された。
オレがオペレーターを務めるブリッジにて。その青龍刀パイロットの少女ロウは喜んでいる。
「良かった。いい加減、保存食素材を戻した食べ物には飽きてきたから。新鮮な地上の食材にありつけるかな。ヨウとユウキ、どちらが料理得意かしら?」
ヨウはたしなめた。
「お気楽に構えていられませんよ、ロウお嬢様。この戦争は、新兵器モビルスーツの働きで、ジオンが圧倒しています。しかし、われらには一機もモビルスーツは無いのです」
エリックがヨウに口を挟んだ。
「肝心なのは兵器の運用です。いくら強くても、用兵を知らない指揮官のもとでは鉄屑同然、連邦も対抗策を模しています」
「エリック、貴方は連邦の技官だったらしいですね。それもかなり重要な開発計画に参加していた……」
「はい、私はやり残した仕事の清算を済ませたいと思います。文字通り渡りに船、私は地上へ戻ります」
「もしや、連邦のモビルスーツ開発ですか?」
「そうでしたらまだ良かったのですがね。私は違います」
寂しげに言うエリックを、ヨウは追求しなかった。オレは疑問に思った。モビルスーツ開発より業が重いような任務を、彼は引き受けていたのだろうか。
ここでオレは受動探知機に反応を発見した! 識別する……
「連邦の……あれは私掠船? 非武装の民間船を襲って盾にしていますよ!」
エリックは吐き捨てた。
「連邦の面汚しだ、海賊か! 容赦する理由はないな」
「しかし、人質を取られては、うかつに攻撃できない」
ここでクラウンナイト提督から司令が届いた。
「海賊船の相手は、我ら宇宙方面艦隊に任せよ。地上作戦艦隊は、そのまま大気圏突入せよ!」
オレは懸念していた。これでは司令に従っても、予定航路から外れるのは明らかだな。どこへ落ちるものか……
後書き だんだんカオスめいてきました。ゲーム感覚で作っています。みなさまのキャラで遊びまくりです。