動く、とっと。
珍しく、路上ライブでカラオケを使っている。
よせばいいのに、そんな場面で私は手ぶれで背景を処理している。
わざとカメラを揺らすと、ストロボが照らした範囲だけ動きが止まる。
水銀灯で照らされた分が残像のようになり、予期せぬ写り具合になった。
この日、はじめて路上で売り出した新曲の「くつずれ」は、売れ行き好調。
その手応えを感じたのか、張り切っているのだった。
表現者なら誰しもメジャーになりたいと思うだろう。
だがとっとは、それが目的ではないという。
――いつまでも歌い継がれる曲を残したい。
それが音楽活動の目的なのだそうだ。
だとすれば、メジャーになるのは、その手段でしかない。
それを聞いたとき、とっとが一回り大きく見えた。
歴史を顧みれば、音楽は残しにくい芸術だ。
いまは音源を残すのに難しい技術は要らないけれども
のちの世の人にも歌われるようになるには、
いつまでも人々の心に響く「名曲」を書かねばならない。
なんて大きな夢だろう。
そこに至るまでの道のりは、まだはじまったばかりだ。
