阿南市「SUPタウン」「SUPのまち」事業に違和感

 

 近年、海洋スポーツ「SUP」を熱心に推す阿南市だが、違和感を感じることが多い。

 

 論評に入る前に、この数年間の阿南市のSUPに関する主な動きを報じた新聞記事を抜粋した。

 

 すべて徳島新聞で、日付は掲載日。公共性が高いと考えられる民間団体名(市が委託、共同運営、公金投入先と受け取れる)はそのまま記載させて頂いた。

 

阿南市のSUP関係のおもな記事

 

2019/2/23 SUP向けの施設整備支援 講習会も開催 阿南市は2019年度予算案に艇庫整備支援に150万円計上。総工費は約250万円。椿町に整備。市は昨夏から任意団体「サステナブル阿南」と協議。

 

2019/5/11 ピープル 阿南の海に親しみを 阿南市地域おこし協力隊の紹介記事。「SUPを通じたにぎわいづくりのため」としている。

 

2019/6/15 椿SUPパーク あすオープン 阿南市と民間団体「サステナブル阿南」が整備。

 

2019/8/27 シーカヤックやSUP 親子連れが楽しむ 阿南商工会議所青年部が大潟町で体験会開催。例年のシーカヤック体験にSUPを初追加。

 

2019/9/3 阿南市地域おこし協力隊 着任 「SUPで観光客誘致」

 

2019/9/4 椿SUPパーク人気 講習会の予約相次ぐ 海外にも魅力発進 市は海外にもアピールするため、総務省の関係人口創出・拡大事業補助金を利用し」台湾や中国から招待しPR動画を制作すると記載。阿南市定住促進課「継続的に阿南に来てもらえるよう、いろいろな施策でPRしていきたい」。

 

2019/9/18 閑話小題(記者コラム) 椿SUPパークについて。「阿南市と民間団体が共同で運営している」と記載。

 

2019/9/21 阿南市と民間団体 外国員招き創作ツアー 市と民間団体「サステナブル阿南」が企画した中国と台湾のモニターツアーで、大潟町でSUPボード作りなどを体験。

 

2020/3/7 阿南のSUPをPR 市などが動画 動画、パンフレット、ホームページを制作。制作費は283万円。一般財団法人地域活性化センター(東京)の補助金と総務省の関係人口創出・拡大事業の委託料を活用した。阿南市定住促進課「ワールドマスターズゲームや大阪万博などで関西に注目が集まる。徳島にも人を呼び込めるようPRを続けたい」。

 

2020/3/16 阿南市ふるさと納税 返礼品にSUP体験 椿湾でのSUP体験。

 

2020/6/23 淡島海岸にSUP拠点 民間団体「サステナブル阿南」が開設。

 

2020/10/18 特集「SUPの街 PR本格化」 阿南市ふるさと未来課・是松清則 課長補佐「SUPといえば阿南というイメージを周知し、一過性にならないよう事業に力を注ぎたい」。

 

2020/10/27 淡島海岸で「SUPタウン阿南カップ2020」協議会 開催 阿南市などが主催。国内招待選手による講習、ヨガ体験も。

 

2021/2/6 阿南で体験型観光 企画へ SUP・ヨガ・遍路道散策・滝登り・・・ 市、恵まれた自然活用 都市部の女性ターゲット 一般社団法人「グランフィットネス阿南観光協会」が中心となってツアーを考案するとしている。信金中央金庫(東京)の地方創生支援事業から市は1千万円の助成を受けた。これを活用し淡島海岸にキャンプやバーベキューができるスペース整備、那賀川沿いに着替え場所やSUPボード保管庫を設ける予定。事務局のまちづくり会社「すだっち阿南」は「阿南の自然や食を満喫できる観光ツアーを企画し、都会からの人の流れをつくりたい」。

 

2021/10/16 川SUP広めたい 事業所開設 体験プラン企画 富岡町に。「桑野川か那賀川の下流域で行う」。

 

2022/9/9 「西日本SUP選手権」 阿南で四国初開催 24日、淡島海岸 参加者募る 市、国内外の退会誘致目指す 阿南市と日本スタンドアップパドルボード協会(SUPA)が開催。選手権は市が地元で体験会などを開く「グランフィットネス阿南観光協会」に運営を委託。淡島海岸では市が2020、2021年に競技会「SUPタウン阿南カップ」を開催。

 


 

阿南とSUPのつながりが未熟

 

 「○○のまち」。ずいぶん安い言葉になった、と思ってしまう。

 

 昨今、阿南市を紹介する様々な文章において、「光のまち」「野球のまち」と並べて、「SUPのまち」「SUPタウン」が表記されていたりするのを目にする。

 

 だが、阿南でSUPが本当にそのような看板文句を掲げるほど成熟しているのか? 誇張、過剰美化としか思えず、違和感を感じざるを得ない。

 

 

 

 SUPで阿南が優れているとする、客観的な評価がどれだけあるのか。

 

 前述の新聞記事を見ていると、阿南の海が景観的に適しているというSUP体験者による感想が記載されているのは散見される。だが、その方は、どれほど全国と比較した結果なのだろうか。取引でお世話になる先方に対しての お世辞、ヨイショ発言の域を出ていないのではないのか。

 

Google検索結果

 

 いま現在、「SUPタウン 阿南市」とGoogle検索しても、阿南でのSUPを評価する発信は、阿南市や、阿南の観光系や移住PR系の組織、「四国の右下」延々の県南PR組織など、阿南行政の息がかかってそうな公的性の高い発信者が自画自賛したものばかりがヒットする。

 

 客観的に第三者が阿南を高く評価するものは、まるで見つからない。税金をつぎ込めば全国どこでも形成できる、公共事業バブル状態でしかないのではないか。

 

 

 

 阿南市の甘い自己分析の一例として、この市は、北の脇海水浴場を紹介する場合、もう30年近くも昔の平成8年に「日本の渚・百選」に認定されたことをいつまでも多用する。

 

 

 だが冷静に考えれば、ほかに99箇所ものライバルが日本中にあり、四国には10箇所もあるのだ。阿南のSUPも、見る限り現状は、これと同レベルの話としか感じない。

 

 

 

 

 ”竹のまち” は、実際に新野町などでのタケノコ販売量の全国的な実績がある。 「光のまち」も、新野町を筆頭にした阿南市内陸部のノーベル賞も産んだ世界的産業だ。 「野球のまち」も、桑野町の野球場を活用し、経済効果は1億円を越え、全国のマスコミに注目された画期的な取り組みだ。

 

 それらはいずれも、客観的に全国から注目された根拠を容易に示せる。地元発の声でなく、全国のマスコミに ”他県より群を抜いた事例” それも全国随一といえるほどのものとして取り上げられるレベルでなければ、特筆的な文化とは言えないだろう。

 

 

 

 筆者は、香川県の瀬戸内海の穏やかな多島美の海で、夕方にSUPを楽しんでいる様子を目にした。筆者の主観になるが、阿南では香川に逆立ちしても勝てない

 

 徳島は冬は風が強く、海が穏やかと言っても、内海とはレベルが違う。香川には西側向きの海岸もあるが沖に行けばすぐ夕陽は見える。徳島は東側に開いた海岸ばかりで海から見ると西側は陸地のため、情景的にベストな時間帯であるサンセットに不適だ。

 

 高知県の仁淀川、四万十川などは広大でフラットであり、条件面、水質面でも、阿南の川や海では勝負にならない。

 

 はっきり言って、それら香川や高知などのまちが「SUPのまち」と称し始めたら、阿南に勝ち目はない。

 

 お世辞で阿南が適していると言ってくれる方も、香川や高知に行けば、おそらくさらに適していると口にするだろう。

 

 

 

 現状では、SUPを阿南と結びつける根拠は薄弱だ。推進者の願望が先行しすぎていると思う。「SUPのまち」は、ただの努力目標の域を出ていない標語だ。「野球のまち」「光のまち」の称号と同種に並べるべきではない。

 

 言ったもん勝ちのように、フワッとしたイメージの良いアクティビティだからなどと、「○○のまち」を濫用するのはいかがなものか。「野球のまち」「光のまち」の信頼性も疑われかねない。

 

 

 

本当に市全体を巻き込む文化か

 

 前述の新聞記事一覧の ピンク で示した地名を見てほしい。淡島海岸、椿町、大潟町、富岡町、桑野川・那賀川の下流域(富岡地区あたりの意味であろう)。阿南市沿岸部のオンパレードだ。

 

 阿南市に一体感はない。阿南のなかで海に対する意識には格差が存在する。阿南全体が海に親しみを持っていると考えてはならない。

 

 極端に言うが、阿南市の大部分を占める市域である内陸地区の羽ノ浦、大野、加茂谷、宝田、長生、桑野、新野の住民は、海のある自治体に住んでいるとすら思っていない

 

 内陸部からすれば、そういってもいいくらい、海は縁遠い存在だ。内陸部は津波リスクもないし、徳島市や県南部に行くにも、用がなければ阿南の沿岸部を通過せず、海に近接した那賀川大橋も通らないため、日常生活で海を目にすることがない

 

 ”海が身近” という認識は、沿岸地区だけのものだ。富岡は低地で市役所の隣は洪水対策の排水ポンプ場であるし、牛岐城の旧名「浮亀城」は水面に亀が浮いている様子を例えたものだ。地名の見能林の「見」は海(うみ)の「み」が転じた言葉という説もきかれる。

 

 

 

 光産業は全市的に雇用を産み、野球文化も全市的にもともと草野球チームの多さが土壌にあってのものとされる。SUPは阿南全市的な波及発展は難しく、今後も沿岸部の 局所的な文化 にとどまるのではないか。

 

 振興される地区が沿岸部にかたよる問題が容易に想像できるし、実際に新聞記事を並べると、その傾向が存在する。経済効果が全市に波及せず、沿岸部だけが内輪で盛り上がっている印象が拭えない。

 

 2021/2/6『阿南で体験型観光 企画へ』の新聞記事では、遍路道観光や滝登りなど、他の観光振興にも触れている。しかし記事を見る限り、カネの使途を見れば、施設整備がSUPや海洋レジャーに偏重しており、ホンネはSUPをやりたいのが第一で、SUP以外は賑やかしの花を添えるオマケ程度のような印象だ。

 

 このような地域偏向が生じるのが明白なスポーツを、否定まではしないが、「SUPタウン」などとして全市的なもの がごとく扱うことには違和感を感じる。

 

 

 

ほかの文化への不自然な軽視

 

 阿南市は近年、やけに積極的にSUPを進める一方で、その前にもっと向き合うこと、やるべきことに対して本気で力を尽くしていないように受け取れる状況がある。

 それがあるがゆえに、過度のSUP推しには、よけいに疑問を持つ。

 

 ひとつは「野球のまち」への不自然なブレーキだ。

 2020年2月24日の徳島新聞『記者手帳 阿南市野球のまち事業予算削減 知名度向上で成果 考慮を』によれば、市は同年度の「野球」事業の予算を削減した。

 

 「野球」事業は1億円の経済効果を産んでいたもので、「観光資源の乏しい阿南にとり、経済効果が市の資産で1億円を越える同事業は魅力の一つ」として、削減するのは不可解、と新聞記者も苦言を呈す。

 

 1億円の経済効果に育っていたものを縮小する一方で、ほぼ同じタイミングで、SUPに注力している。支離滅裂だ。

 

 

 

 徳島新聞2020/10/18「SUPの街 PR本格化」によれば、同年のシーズン5月~9月末でSUP体験会参加者は330人だが、四国八十八箇所の平等寺WEBサイトによれば、年間で十数万人のお遍路さんが訪れるとしている。それも行政が関与せず、公金投入などせずに、自然状態ではじき出している結果だ。

 

 いくら人気が高まっていると言ってもこの人数では、「SUPタウン」と掲げるほど特筆すべき文化に熟していると見なすのは難しいし、観光戦略の主体的に扱うほどのモノではない、といわざるをえない。

 

 

 

 阿南市は、重視すべきものの選定眼、バランス感覚がおかしいとしか思えない事例が多すぎるし、そもそも文化は 作るもの とみなす発想が強すぎるのではないか。

 

 市は、1200年の歴史を誇り、これだけの観光客が訪れる四国八十八箇所よりも、640年程度の牛岐城を重視している。

 

 隣町をみれば、日和佐で薬王寺を中心として賑わっていて、四国八十八箇所を観光の中心と位置づけている事例がすぐに目に入る。阿南駅はキヨスクが撤退し、駅前の市の施設の活用に困り果てる一方で、薬王寺の玄関口ともいえる日和佐駅前・道の駅日和佐は5期連続で黒字だ(出典:徳島新聞2024/1/27)。

 

 

 かたや同じ四国八十八箇所・平等寺の前の駐車場は砂利だ。市が設けた交流施設など何もないばかりか、道の駅新野計画を凍結した。

 

 SUPなど、新しいことをやる前にやるべきことはないのか。すでにあるものを活かすことを本気で考えてきたか?

 

 阿南市や市内の観光系・まちづくり組織は、SUPの前に、四国八十八箇所の動画や特設ページを作り、阿南市内陸部がまず先に大きくPRがされている状況があるのが筋だろう。

 

 

 

 団体名やプロジェクト名。「加茂谷元気なまちづくり会」のように、掲げた地域のまちおこしに注力するならまだ分かるが、「阿南○○○○○」「○○○○○阿南」と市名の阿南を使って、実際は富岡付近しか本気にならず、そこに市も全力で加担し、補助金などもすんなり出す。そういうケースが多すぎないか。

 

 市への観光効果を最大化することなんてどうでもよくて、富岡・沿岸部が中心的立場になれそうかどうかしか気にしていないのではないか? というのは邪推しすぎなのでしょうか。