ザ・シェイプ・オブ・ウォーター | ささやかだけれど、役に立つこと

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読書、映画、時事ニュース等に関して感じたことをメモしています。忘れっぽいので、1年後にはきっと驚きをもって自分のブログを読めるはず。

注意:以下、ネタバレの内容が含まれます。

 

以前から楽しみにしていたザ・シェイプ・オブ・ウォーターを観てきた。デル・トロ監督、アカデミー賞作品賞&監督賞その他受賞おめでとうございます。

 

想像していたよりもテンポ良く物語が進んでいく印象を受けた。主人公のイライザと半魚人の関係がもう少しじっくり描かれるのかと思っていたが、結構あっさり信頼関係が築かれたのがやや意外だった。また、中盤イライザと半魚人が恋愛関係に突入するが、それもちょっと唐突だったような。。まあ二人とも大人同士だし(?)、冗長な駆け引きは不要ということか。

 

次に意外だったのは、半魚人は一貫して半魚人だった、ということ。人間の女性と結ばれるからには、もう少し人間的な要素が描かれるかなと思ったけれど、想像以上にクリーチャーのままだった。猫を頭から齧っちゃうような野生を示すこともあるので、ラブシーンも感動的というよりはなんとなくハラハラしてしまった。

 

他に良かったのは、セキュリティ担当のストリックランドを演じたマイケル・シャノン。上司からの評価(脅迫?)、自分の野心、夫&父親としての役割など、多方面からのストレスに晒されていて悪役ながら同情してしまった。左手の小指と薬指が腐って黒く変色していく様が、彼の追い詰められていく姿と重なって、同じような立場にある人は性別によらず胸を締め付けられる思いになること必死だと思う。

 

観た後になって感じたのは、主要な登場人物が皆それぞれ崖っぷちに立たされていてキツイなあ、ということ。半魚人は南米から無理やり連れて来られた上に明日にも解剖されそうなので、文字通り生死の危険に晒されている。イライザは過酷な生い立ちと失語症のために単調で孤独な日々に閉じ込められている。イライザの隣人ジャイルズもポップアート専門の画家として時流に取り残されていく不安に苦しみ、また60年代米国でLGBTとしてパートナーを見つけることの困難に見舞われている。研究施設で働く研究者であると同時にソ連のスパイでもあるホフステトラー博士は、半魚人脱出を手助けしたために米ソ双方から疑いの目を向けられる。ストリックランドも同じく既に見た通り。

 

個人と国家システムの利害が衝突する際に、システム側に立つ人間も含めて結局全員が辛い目に遭うという典型的でかつ悲惨な構造が枠組みとしてあるが、本作はおとぎ話なので半魚人とイライザは幸せになれて良かったね、というふうに物語を結んでいる。この点はパンズ・ラビリンスとはちょっと趣が異なるかなと思った。個人的にはパンス・ラビリンスのエンディングの方が好きだけれど、本作の方が物語としては力強いかもしれない。