(注)以下の文章は映画の結末に関する内容を含みます。
リップヴァンウィンクルの花嫁を観た。ある事情から離婚した皆川七海(黒木華)が、何でも屋の安室行舛(綾野剛)の紹介で行った怪しげなバイト先で女優と名乗る里中真白(COCCO)と親密になって。。。という話。
とても寓話的な傾向が強い映画なので何とも形容しにくい。ただ、正直言って黒木華とCOCCOが庭で戯れたりウェディングドレスを纏って死や愛について語らうあたりは何だか妙に気恥ずかしくなって見ていられなかった。自分にこの映画は敷居が高過ぎたし、また色々な意味で岩井俊二監督(54歳)の感性はすごいなと思う。
ということで鑑賞中はなんとなく安室の行った仕掛けについて考えていた。岩井監督の原作小説を読んでいないこともあって幾つか分からない点があった。たとえば、安室は七海の浮気現場をでっち上げ、その証拠写真を七海の義母に提供することで七海が離婚せざるをえない状況に追い込む。七海の義母と安室はどのタイミングでどのように接点を持ったのか?その義母に雇われていたのか?或いは安室の別の計画のために彼女が離婚することが必要だったのか。
安室は七海を利用し尽くしているようにも見えるし、同時に何かと気にかけて世話を焼いているようにも見える。ただ、死期がせまり苦悩する真白から心中相手を探して欲しいと頼まれた際、真相を伏せたまま七海を真白の元に送り込むなど冷酷な一面を持つ。真白は、七海の意思とは関係なく彼女を道連れにしてしまう可能性も相当程度あったはずだ。安室が七海に言った通り、真白は「怖い人」なのだ。
しかし終盤、安室は真白の母親と一緒に素っ裸になって泣きながら真白を偲ぶ。成り行きではあるし演技かもしれないけれど、なにも彼まで素っ裸になる必要は全くないのだから、彼にとっても真白が死んだことは「クライアントが本人のご意思で予定通りお亡くなりになりました」では割り切れないということだと思う。
エンディング付近、安室は新居に引っ越した七海を訪れて残りの給与をきっちり支払い、家具の世話までする。この辺の描写もまた、彼が銭金だけを基準にして生きているわけではないことを示唆している。
安室が七海と話す際も、基本的に敬語なのに急にタメ口になるなど二面性のある危険な雰囲気がうまく描かれていた。七海は最後まで安室の一面しか見ていなかったようだけれど。