「生物ってさ、」


本当に凄いよね


『なに、突然』


「いや、ね」


この世に生命が生まれてから
気が遠くなるくらい年月が流れてて

その中で生物は進化し自分たちの命を繋いできたでしょ


『うん、』


中には環境の変化に耐えれず
絶滅してしまったものもあるけどね


『咲人は何が言いたいの?』


「うん、俺たちの祖先は
今を生きる俺たちのために自分たちの物語を繋げてきた」


『物語…?』


「うん、父さんや母さん、じいちゃんにばあちゃんとか

一人一人にそれぞれ生きてきた物語があって

2人が出会って
また1つの物語が始まる

それの繰り返しが
家族とか家系になると思うんだ」


『う、ん…』


「受け継いできた物語は次の世代へ…

でも


俺たちにはそれが出来ない。」


どんなに愛し合っても
次の物語を産み出すことが出来ない


『咲人は、』


物語を次に繋げたいの…?


「背徳心や罪悪感で気持ちが潰れそうになる」


俺は咲人のお荷物なのかな…


『ねぇ、もし咲人のいう物語があるとして
咲人は次に繋げたい?』


「………」


『咲人がもし望むなら
俺は、咲人と別れる、よ』


だって俺は
邪魔者でしかないから


「俺は、
柩を失いたくない」

『じゃあどうして…』


「俺には兄弟がいるから次があるけど
柩は一人っ子だから
柩の物語を止める障害は俺になる」


『咲人は馬鹿だね』

ほんと馬鹿。


『今さらな話だ』


「うん」


『そんなこと気にしてたら
咲人なんて好きにならない』


「うん、ごめん」


『俺たちには1つの物語で十分だよ

その分素敵な話にすればいい』


「うん、
ありがとう柩


大好きだよ」


『俺は愛してる』


そう言った俺の顔はきっと何よりも赤かっただろう


俺たちの物語はまだ始まったばっかり

いつか終わりを迎えるまで
誰もが羨むような話を綴っていこう
醜い俺には
綺麗に笑うお前は眩しすぎる


どんなに手を伸ばしても
どんなに捕まえようとしても


お前は俺の手をすり抜け
広い世界に逃げていく


傍にいてくれ
離れないでくれ


俺にはお前が必要なんだ


なぁ
あと何度言えば
お前は言うことを聞いてくれる?







独りにしないで
独りは怖い

だけど
一緒にいれない

矛盾した思い

本当は大好きな貴方の傍にいたいし
いてほしい

だけど

きっと俺が貴方のところにいけば
貴方は怒るでしょう?

いきたいけど
いかない

だけど貴方の近くにいれないことが辛くて限界…


ねぇ、もういいかな?



君と僕
俺とお前



この世に捕らわれているのはどっち(だ)??



相手を追いかけてるのはどっち(だ)??



こんなにも求めてるのに


追いつけないし
届かないんだ
今日も一通
赤い箱の中に白い封筒を通す


一週間前から届き始めた手紙の返事


俺に届く手紙はいっつも一行だけ


1日目は
お変わりなく過ごしてますか?

2日目は
笑っていますか?

3日目は
寂しがらないでください

4日目は
愛しています

5日目は
笑っている顔が好きです

6日目は
そろそろ、お別れしなくてはなりません

7日目は
さようなら、
と書かれ半分破れている便箋

ねぇ…
その手紙の続きは何が書かれてたの?

俺は手紙が来る度に便箋いっぱいに返事をする


でも、俺の出した手紙は
主人を失った家にしか届かなくて

ただポストに溜まっていくだけ


だけど、俺は手紙を書くことを止められなくて


何度も何度も手紙を書く


貴方の最後の手紙、続きを教えてくれませんか?

今まで書いてきた手紙の中で一番短い手紙

たった1行の返事

返事なんて返ってこないことなんて解ってるのに


貴方を見送ったのは俺なのに


返事を期待する俺は馬鹿でしょうか?


咲人からの手紙が途絶えて2日


やっぱり返事は来ない
でも俺は今日も手紙を書くね

一方通行でもいい
俺の想いが伝わるよう







ねぇ、先日亡くなられた坂口さんの部屋からこんなものが…




破れた半分の手紙は相手に届くことなく消える



震える手で綴った最期の言葉







いきて
俺、こんなとこで何してんだろ…

こんな惨めな思いするぐらいなら


いっそ殺してくれた方が幸せだった…


ザァザァと降る雨が冷たすぎる


一瞬の出来事だった

知らない男にボコられて
犯された


怖かった
声も出なくて


ただ羞恥に耐えるしかなくて

耳元では荒い息


『う゛っえ、』


思い出すだけで
吐き気がする


今も俺は
自分の股から流れる
誰とも解らない白濁色のものを流しながら横たわっている


『このまま…』


雨にうたれ続けたら

俺は死ねるのかな?

酸性雨とかでも何でも
今じゃあずっと
俺より綺麗だろうし


瞼を閉じて
俺はすべてを拒絶した


耳に入ってくる
雨音だけを除いて


っ、い…
か!


誰かの声がする

俺死んだのかな?


重たい瞼を押し上げると
光で溢れた世界


「大丈夫か?」


『っやあぁぁっっ』


「落ち着け、俺は何もしねぇよ」


あぁ神様、
俺は死ぬことすら許されないのですか…


「一応見えるとこは手当てしたんだが
まだどこか痛むか?」


『い、え…』


そう言われて体を見てみると
体が綺麗になっていて


『て、あて…
してく、れた?』


「おぅ、ほら飲め」


手渡されたのは
ホットミルク


飲むと
ふんわり俺を包んでくれる温もり


温かい
俺…生きてる


生きてて良かった…

『あ…あ、ぅ』


お礼を言おうと思ってるのに

なのに

涙が止まらなくて
言えない


「怖かったな、思いっきり泣け」


あぁ優しさが
雨のように降ってくる

さっきまでとは違う温かい雨


優しい優しい雨


『、とっ、ありがとう…』


「気にするな」


俺を助けてくれた人は玲汰さんというらしい


温かいミルクのせいか
俺の心も凄く温かくなって


とくんとくんと波打つ心臓


さっきまで
あんなに怖い思いをしたのに

不思議と
まだ玲汰さんと一緒に居たいと思う自分が居た
ハロー
ハロー

大好きな玲ちゃん

ハロー
ハロー

俺の声は気持ちは届いてますか?


今日も携帯片手にベランダに出る

空には綺麗なまんまるお月様


ハロー
ハロー…

どこにも繋がっていない携帯を耳にあてお月様に交信を


仕事でほとんど毎日会ってた時も

ツアーで同室だった時も

足りない
全然足りないの


玲ちゃんの声が聴きたい


だけど


『こんな時間に電話しちゃ迷惑だよね…』


音の鳴らない携帯電話
貴方と繋がらなければただの金属の塊


ハロー
ハロー


夜空に浮かぶまんまるお月様


ハロー
ハロー


遠く離れたところから
玲ちゃんも貴方を見ていますか?


『もう寝よ…』


今日も鳴らなかった携帯電話

明日は鳴ってくれるかな

鳴ってくれるよね






室内に零れる月光は
ただ机の上にある
無惨な姿をした

一台の携帯を優しく照らしている




ハロー
ハロー



今、


貴方は


俺を置いて



何処に居ってしまったの?