ある瞬間を味わう快感 | PlatinumClubⅡ

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森圭吾の音楽人生「Platinum Club」の復活版

6月29日、ブリアコフとの共演

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彼は前にも書いたが、人間を越えた超人的テクニックの持ち主。

通常の人間の限界を遥かに超えた指と舌の速さ。


まあ、それだけとも言えるのだが、その「それだけ」は

聴くものの度肝を抜く。


理由は定かではないが彼の演奏会を聴きに行った聴衆の中で

ごく少数だが、気分が悪くなって途中で退席する人もいるのだ。

おそらく、耳の良い人間は耳と脳の連動にギャップが生じるのだろう。

このこと事実を知ると、思うところは多い人もいるだろう。


けれど同じ人間としてなぜそのような驚異的な

テクニックが生まれるのか、ここ数日間の練習で

すこし分かってきたような気がする。


こんど彼とデュオする曲、ヴィヴァルディの2本のヴァイオリンのための

協奏曲は、ヴァイオリン奏者なら小学生でも弾ける曲だそうだが

それをフルートでやるとなると事情は違う。

とにかく、速く、速く、どこまでも続く。

最近はその速さについて行く能力を上げるトレーニングに専念している。


しかし、出口は全く見えてこない日々が続く。

このままでは、全く演奏不可能だ。

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ところが、昨日ある一瞬、硬く締まったワインのコルクが

「ポン」と抜ける瞬間があった。

それまでどうやってもついて行かなかった舌が

まるでつっかえ棒を取り去ったかのように、ころころと

回りだしたのだ。それも驚異的なテンポで回る。


それはブリアコフのタンギングを想定しながら練習して

初めて起こったことで、かつてこのような経験はしたことがない。

自分がある種のトランス状態に陥った、そんな感じだった。


人間はいかに目的に対して特化することが、その能力を高める要因になる。

そのことを改めて実感した。


ブリアコフとの共演がなかったら、昨日の出来事を体験することも

なかったのではないかと、彼に感謝したい。


ただがむしゃらにやるでのではなく、イメージを持って

目的を脳に認識させることが重要なのではないだろうか。

そんなことを思ったのが昨日のこと。


・・で今日はどうかというと、全然ダメだ。

また元に戻っている。

何時間もやっているのに、いっこうにトランス状態はやってこない。

いったいどうやったら維持出来るんだ~!

しかし突破口が見えた今、超人状態を維持出来るように

模索を続けたいと思う・・のだがちょっとオケが忙しすぎるのが

目下の障害だ。

明日から札響ブラスでサロメ、ボレロ。

ちなみに課題曲などのブラス曲は今回無理を言って降り番にしてもらった。

共演の中学生や、楽しみに聴きに来る人には申し訳ないが

サロメとボレロを成功させるためには仕方ないのだ。


今月は18日からヨーロッパ公演に出発し、30日に帰国するまで

自分の練習時間がどれほど確保できるかに勝負のポイントがある。


6月13日に高知でリサイタルもあり、その曲目もかなり難易度が高いのだが

まあそれは、どれもフルートの曲なので気は楽だ。

そう思えてしまうほどに6月29日はヤバイ。


さて、人間の限界を超えること。

それは、もしかすると誰にでも出来ることなのかもしれない。

ブリアコフはその特化した練習法をずっと維持しているのかもしれない。

聞くところによると、彼は「さらい魔」だそうだ。

本番の直前まで楽屋でさらいまくっているらしい。

なにか新しい練習法のヒントになりそうだ。

ブリちゃんに感謝ビックリマーク