迫り来る人災に備えよう | ソウルメイトの思想

ソウルメイトの思想

唯物論に対する懐疑と唯物論がもたらす虚無的な人間観、生命観を批判します。また、唯物論に根ざした物質主義的思想である新自由主義やグローバリズムに批判を加えます。人間として生を享桁異の意味、生きることの意味を歴史や政治・経済、思想・哲学、など広範二論じます。

 東日本大震災の発生後、東北地方の太平洋岸を襲った大津波に多くの人がのみ込まれ、かけがえのない命を失いました。

 その時の状況を撮影したビデオを見ると、迫り来る水の塊を前に茫然自失となって逃げようともしない人の姿が映し出されています。
  
 「凍りつき症候群」というのだそうです。

 突然予期しない事態に直面すると、思考停止、判断停止となってしまうのだそうです。

 そういう時に誰かが「何をしてる。早く逃げろ!」と声をかけてやれば、凍結状態が解除され、非難行動に移ることができるんだそうです。

 今後発生することが予想される東南海地震に備える上で貴重な教訓だと思います。

 さて、津波は、誰も抵抗できない圧倒的な力で家も街も飲み込み、根こそぎ持ち去ってしまいましたが、この自然災害の強大な力に勝るとも劣らないような圧倒的な力で人々の暮らしや命そのものを奪い去ってしまう「人災」があります。

 その名を新自由主義、あるいはグローバリム、別名株主資本主義やコーポラティズムといい、ようするに企業の利潤追求行動を無制限に許し、人々から仕事と所得と資産を取り上げて貧困のどん底に叩き落とし、生存の危機にさらすものです。

 これは、大地震や大津波のような自然災害と異なって、人災ですから、防ごうと思えば防げるものですが、大津波の迫り来る水の壁を前にして茫然自失となって立ち尽くすように、思考力や判断力が停止してしまうと防ぐことができません。

 でも、誰かが「危険が迫っている!」と声をかけてやれば、思考力停止や判断停止が解ける可能性がありますし、「これは、人災なんだから、避けようと思えば避けられる!」と声をかけてやれば、人々は正しい選択と行動に移る可能性は小さくないと思います。



 さて、2017年11月に大筋合意が確認され、2018年3月8日にチリのサンティアゴでオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11ヶ国による署名式が行わた、TPPもその最たるものの一つといってよいと思います。日本からは茂木敏充内閣府特命担当大臣が署名式に参加しています。

 TPPとは何か?

《主権国家は環境保護、食品衛生、薬価上限、知的財産に関する国内法に基づく決定、公益事業に関連する規制など様々な規制を設けている。

TPPに含まれるISDS条項によれば、それらの規制が企業の将来的収益を損ねると判断される(もしくはTPPの取り決めに違反している)場合、その企業がその損失の賠償などを求めてその主権国家を訴えることが可能となる。その裁判は特別法廷で行われ、政府側が負けた場合は訴えた企業に賠償金を支払い、仮に政府側が勝ったとしても、裁判にかかる弁護士料など諸費用を政府が負担させられる可能性もある。初期のリークされた文書では特別法廷員にかかる費用の下限は1時間あたり375ドルであったが、最終合意文書ではその費用限度は撤廃された。特別法廷がその裁量で以ってその額を決めることができる。よってその賠償金と特別法廷員にかかる費用などは訴えられた国家の納税者に負担をかけるだろう。

ISDSによる特別法廷で、政府側が賠償金を支払うことを命じられた場合はその国の有権者に課される「隠れた税金」となる。それは、政府によってではなく多国籍企業などの企業側によって課される税金である。

これまでの判例では、特別法廷は訴えられた側と訴えた側両者に対して、弁護士・特別法廷員料など特別法廷に関連するコストを支払うよう命じている。特別法廷に関連するコストの平均は、政府側が約440万ドル、申し立てた側が約450万ドルとなっている。

バーニー・サンダースとドナルド・トランプという一見すると政治に関するスタンスが大きく違う両者が反TPPでは一致を見ている。左側は「(TPPによって)非民主的な大企業による逸脱行為が正当化される」、右側は「TPPが国家主権を侵食する」と唱え、TPPやTTIPに反対する。

NAFTA以後の貿易協定(TPPなど)は、特定の集団にアドバンテージを与え、その他には不利益となるものだった。

NAFTAに含まれる条項はゼネラルモーターズ(GM)のような多国籍企業がメキシコに工場を移し、メキシコで自動車を製造した後にその自動車を米国に売りつけることを容易にするものだった。これはGMの収益のためはよい知らせだった。だが米国国内の自動車製造会社にとっては、(メキシコの安い労働力と争わなければならないために)その会社の従業員の賃金カットもしくはリストラせざるを得なくなった。NAFTAは米国の労働者にとっては悪い知らせだった。

トランプは、キャリアやナビスコで大規模解雇が行われ雇用がメキシコへ移っていることを指摘しつつ、「サンダースは、米国が貿易で大損してることをわかっている」と述べている。

NAFTAでは、貿易の特定の領域に関しては自由どころか保護が強くなった。処方薬の特許や本・映画・ソフトウェア・音楽の著作権などである。2016年4月時点で、米国国民は一人あたりにして年間およそ1300ドルを薬剤購入に費やしている。これが本当に自由貿易ならばその10分の1の費用ですむだろう。

カリフォルニア大学バークレー校の研究者らはTPPを以下のように説明している。TPPは環境、労働(基準)、ヘルスケア、医療に関しての規制権を大企業に握らせるための協定であり、大企業の利益になるが環境や労働者を保護しない性格をもち、仕事がアウトソースされるために中低所得者を害する協定である。2016年アメリカ合衆国大統領選挙でのアメリカ合衆国大統領候補であるバーニー・サンダース(民主党)とドナルド・トランプ(共和党)、両者ともにTPPに反対している。

2016年4月、米国ニューヨーク市長ビル・デブラシオがTPP反対の声を上げた。デブラシオは強い口調で語る。「TPPに反対する熱意が我々にあるのは当然だ。我々米国国民は以前にもこの手の映画(すなわち北米自由貿易協定、NAFTA)を見ているのだから。NAFTAがどれだけひどいものだったか我々は見てきている。その過ちを繰り返すことはない。」 「物欲に囚われ米国の中間層を犠牲にした。それがNAFTAだった。NAFTAによって米国の百万もの雇用が失われた。ここニューヨークでも何万という職が海外にもっていかれた。中流生活を送っていた人々がラグを処分させられる破目になった。勤労・誠実だった人々から突如として全てを奪った。それがNAFTAだったのであり、同様にTPPも米国に悪影響をもたらすと考えるべきだろう。よって我々はTPPに反対すべく立ち上がっているのだ。」

TPP交渉に関連した文書・メールなどが非公開となっている。しかしながら国際法の観点から条約法に関するウィーン条約を尊守し、交渉過程で何かしらの(直接的・間接的)不正が存在したかどうかを確認することは重要である。例えば同意に至る交渉・調整過程で何らかの詐欺的行為、(直接的または間接的)買収があった場合には、ウィーン条約の49条・50条に則り自国の同意を無効にする根拠となる。脅迫などがあればウィーン条約51条に則り、自国の同意は法的拘束力を失う。》(以上Wikipedia)。

 TPPのデメリットとしては

1.デフレの可能性

価格が安い輸入品に伴い、国内で生産されている製品の価格が下がることが予想されます。

もし物価が持続的に下がってしまった場合、デフレ状態になります。

物価の下落に伴い売上高が減少すれば、従業員の給料を下げたり、解雇せざるをえなくなるため、景気が冷え込むと予想されています。

2.日本の農業が縮小する

もともと日本の農業は非効率的と指摘されている中で、外国の安い農作物が流入すれば、競争に勝てない農業従事者が現れることが予想されます。

食料自給率の低下が懸念されます。

3.食の安全が脅かされる

TPP協定に参加すれば、規制の緩い外国産の食料が日本に流入する可能性があります。

特に遺伝子組換え食品に表示義務がないため、知らぬ間に遺伝子組換え食品を口にする機会が多くなる可能性があります。

4.医療格差が広がる

現在の日本では健康保険法をもとに誰でも平等に医療を受けられますが、TPPに参加することで医療はビジネス寄りになると考えられています。

例えば、高所得者は高額な医療費を支払うことで質の高い医療サービスを受けられるのに対して、低所得者は質の低い医療サービスしか受けられなくなる可能性も十分考えられます。

 などが明けられます。けっして推進論者が声高に吹聴するように良いことばかりではないんですね。そして、上記に上げたデメリットは日本の産業と経済、ひいては国民の暮らしに致命的なダメージをもたらす危険性が懸念されています。もしTPPというものがどういうもので、どんな危険が隠されているのかについてまだよくご存知ない方はぜひ調べてご覧になることをおすすめしたいと思います。

 TPPの見逃すことのできない危険な一面は、TPPで合意された内容が多岐を渡り、かつ巧妙な法律文言で表現されているので、英米法に不慣れな者やそもそも法律文書を解読する訓練を受けていない者にとって、それが何を意味しているかを完全に理解することが難しいことです。

 安倍政権与党の自民党および公明党は、ろくな審議も尽くさず数を頼んで採決してしまいましたが、賛成した国会議員が果たしてそのすべての条約文言を理解しているかどうかは、はなはだあやしいもので国民の暮らしや健康、生存の維持に多大なダメージを与える国際条約を自分が理解できもしないのに批准に賛成した、という背筋の凍るような恐るべき事態が発生していた可能性が小さくないと思われるわけです。


 またTPPの見逃せない異常な一面は、その内容や交渉過程について守秘義務が課され、TPPを批准するか否かの判断を下す国会議員までもがその例外ではない、という点でしょう。内容や交渉過程の詳細がわからなかったら批准すべきかどうかなんて判断しようがありませんからね。内容のよくわからない契約書にサインすることが無謀であるのと同じことなんですね。

 ところが、安倍政権はろくに内容も交渉過程も知らせずに強硬に採決してしまったわけです。TPPが発効したら国民の生活や暮らしにどんな甚大な破壊的影響がもたらされるか、ろくに議論も尽くさなかったことの以上さと異様さは指摘しないでおくことはできません。

 また、安倍政権の経済政策の目玉の一つが「国家戦略特区」構想ですが、国家戦略特区というのは、ようするに労働者や国民の健康や生活を守るために企業の経済活動に課す規制を取っ払って企業が自由に好きなように金儲けできるようにできる地域を、ひとまず限定的に選定し、それから順次それを全国規模に広げてゆこうというもので労働者を守るための労働基準法の解雇制限を緩和する特区を設けたり、外国人医者による混合診療を解禁してお金持ちだけが高度な医療を受けられるような特区を設けることで国民皆保険制度を骨抜きにして、低所得層や貧困層が満足な医療を受けられなくなる可能性があったり、現在、安倍晋三氏の関与が濃厚に疑われる加計学園にたいする厚労省の不透明な学部新設の認可もこの国家戦略特区という仕組みを利用して行われたもので、特定のものにたいする超法規的な利益誘導に悪用されてしまう危険性がきわめて高いわけですが、国家戦略特区制度は、TPPを導入し、国内に展開するための下準備ではないかとも指摘されています。

 安倍政権が厚労省があげてきたずさんな調査とデータにより別名「働かせ放題法案」=裁量労働制法案や高度プロフェッショナル制度によって労働者の労働条件や所得は劣悪化することは免れないでしょう。


 日本人の暮らしや生活、生存条件に破壊的影響を及ぼす政策は、上記だけにとどまるものではありませんが、安倍政権はなぜそういう政策を積極的に推進しようとしているのか?というと、安倍政権は国民の一部少数にすぎない富裕層や経済権力の保有者に利益をもたらすため、としか言いようがないと思います。

 企業のような組織を例に取ればわかりやすいと思いますが、組織にはかならず地位の高低、権限の大小、それに伴う所得の多少というものが不可避的に存在します。普通、社長や重役のほうが下級管理職やヒラ社員より所得も多いし、人事権を含む権限も大きいわけです。一種のピラミッド構造を形成していて下々の者は、上位の者には逆らえないようになっているわけですね。

 しかし、そのままでは下位の者たちの要望や希望を実現させることは困難なわけですが、下々のものが唯一、上位の者に勝っているものがあります。下々の者は数の多さで上位の者を圧しているという事実です。

 だから、下々の者が自分たちの主張や意見、希望をかなえてほしいと思うなら、連帯して団結するよりほかはないでしょう。それこそが労働法に明記された労働者の団結権および労働争議権なわけですね。で、そういうものがあると企業が労働者を好き勝手に働かせ放題働かせて、ろくな分配もしないということがやりにくくなるからTPPのような国際条約でもって有無を言わせず労働者の保護規定を無効化しようとするわけですね。

 さて、一つの企業でも下々の労働者の数のほうが多い、ということは、そういう企業が何万、何十万と含まれる一国の規模でみたって、下々の労働者のほうが圧倒的に多いわけです。言い換えれば、国民の圧倒的大多数は下々の労働者だと言っていい。この人たちを貧しいままに放置しておいては、一国の経済・産業の隆盛も国力の充実・増大も期待できないと考えるのが「進撃の庶民」に集った経世済民の思想家たちの見解であり、認識であるといっていいと思います。

 一方、「いや、そんなこたぁねぇよ。下々の者のことなんな気にせずに、上の連中が好きなように金儲けしたほうが経済や産業も発展するし、国力だって増大するんだ」というのが、新自由主義、グローバリズム、株主資本主義=コーポラティズムの立場で、その代表的人物をひとりあげろと言われれば、竹中平蔵氏をいの一番に上げることができるわけです。 

 その、どちらの言い分が正しいのか?

 「ああだこうだと抽象的な議論をしたって益がない。観察された事実に基づいて判断しようじゃないか」と、わたしたち経世済民派は主張するわけです。一部少数の富裕層に富を集中させ、独占させたほうが、国家や社会は繁栄するのかしないのか、実際に観察して判断しようじゃないかと主張しているわけです。

 といっても、普通の一般の人は自国の経済だって把握するのはなかなかに難しいわけですが、そういう研究を行った研究者の研究成果の一部を下記にお示ししますのでご参考くだされば幸いに存じます。

 ハジュン・チャン 著「世界経済を破綻させる23の嘘」

服部茂幸著「新自由主義の帰結─世界経済はなぜ停滞するのか」

小林由美著「超・格差社会アメリカの真実」

ジョセフ・E・スティグリッツ著「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」、「人間が幸福になる経済とは何か――世界が90年代の失敗から学んだこと」、「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」「世界の99%を貧困にする経済」

堤未果著「貧困大国アメリカ」3部作シリーズ、「沈みゆく大国アメリカ 逃げ切れ!日本の医療」

中野剛志著「TPP亡国論」、「TPP黒い条約」

 お金というものは、人々の間を循環することによって富の創出を促すものです。新自由主義とか株主資本主義は、労働者への分配を減らして資本家または投資家への分配を増やすことによってお金を資本家や投資家のもとに集中させてお金の循環を阻害してしまいますから必然的に経済活動を停滞させ、結果として富の創出を減らしてしまいます。新自由主義と株主資本主義が帰結するものは、貧富の格差の拡大だけでなく、経済活動の停滞と経済規模の収縮といってよいでしょう。

 富裕層には膨大な資金力があったとしても、それは万能ではありません。そして、数の上からいって圧倒的大多数を占める庶民が結束するなら、強力な政治的パワーを生み出し、それによって富裕層へのお金の集中を解消することができます。富裕層へのお金の集中を解消してやることこそ、経済停滞と経済規模の縮小を是正する強力な方法であることに経世済民派の思想家なら異を唱えることはないだろうと思います。

 新自由主義や株主資本主義、金融資本主義というものが、一部少数の富裕層に富を集中させ独占させるように作用するのに対して、経世済民の思想は、一部少数の富裕層ではなく、経済的特権や政治的権力を持たないごく普通の一般の人たちを益することを政治の使命と考える立場であるといってよいと思います。そうすることが国力の増大につながると考えるからです。かつて、「富国強兵」ということが言われた時代がありました。しかし、国を富ませようと思えば、民を富ませるよりほかないと思います。民を貧しいままにしておいて、国が富むわけがないじゃないか!そう考えるわけです。経世済民の考え方とはそういものだといってよいと思います。