昨日8月12日の壮大な日蝕。パリでは92%が侵食された。
現代のビッグバンド音楽を色々聴いていくと、現代ジャズラージアンサンブルのリファレンスと言われるマリア・シュナイダーに辿り着くのは当然と言えば当然なんだけれど、この夏はその音楽にハマりまくっている。
聴き始めた頃はその平易な表面が災いして、その深さがよく聞き取れなかったのだが、徐々にそのユニークなオーケストレーションの虜になった。クラシックとジャズを作品上で融合させた最初の人物と言われる彼女の人生を見ていると、半分ぐらいが実用性という運命によって連れてこられたもの、半分ぐらいがそこでどうやって生きていくのか、すごく自分でもがきながら創ってきたもの、というとてもナチュラルな感じがする。
そしてそこにとても親近感を感じる。
親近感を感じるようなレベルの人ではないにも関わらず。
彼女はクラシックからジャズへと運命的に入り込んだ人で、__そういうところもすごく共感できる所以__その人生と作風は完全に一致している。マリア・シュナイダーはジャズの核を成す即興と、クラシックの核を成す作曲を、完全に繋げるというミラクルに至った最初の人だと思う。そのような偉業は、この天真爛漫なナチュラルさあってこそ出来たのでは?と思う。自分の運命を分かり、そこを掘り下げる事ができた、そういう素直さに基づく、とても人間的なインテリジェンスを感じる。どうだ、恐ろしい才能だろ!こんなの絶対書けないぞ!演奏はめちゃくちゃ難しいぞ!というファサード(仮面)を被る多くの作曲家とは違っている。彼女の語りから、出し惜しみをしない人だと言うことが伝わってくる。
「自分がコンポーザーとして何を表現したいのか?」というエゴ超えて、音楽のために表現する、というところに辿り着いたそうで、これって本当にそうじゃなきゃなあ、と思う。
思うに、それは核心で、みんなそこに辿り着くために一生懸命エゴを燃やして書いているのでは、と思う。
音楽が小説的で、文系なところも私としては親しみをを感じられる。私もそうやってしか音楽を書けないから。しかし最終的に数学的なところを考えながら答え合わせをする、というのも、すごくよく分かる。彼女の師匠のボブ・ブルックマイヤーはけっこう音楽が理系だと思うけど、__このブルックマイヤーの作品のアイデアは本当に無尽蔵、という言葉がぴったりくる、一つ一つの作品が創造的アイデアの実験場のようだ__やはり音楽とは自分が理系か文系か分かった上で、そこを掘り下げると同時に、両方の要素を取り入れる事が出来ないと完成しないのだ。
ということで、前のブログに登場した、この間パリ地方国立音楽院ジャズ科の審査員をご一緒させて頂いたフランスのジャズ作曲家、フレッド・モランさん(彼の音楽はバリバリの理系ですね!)は、私の母校パリ国立高等音楽院で現在ジャズ作曲とビッグバンドを担当しているということで、この9月からビッグバンドを聴きにきて良いよ、と言ってくださった。
「新学期は何をやるんですか?」と聞くと、なんとボブ・ブルックマイヤーとマリア・シュナイダーだという。もうこれは運命としか言えない。
ということで、9月からはこの大好きな二人の作曲家の音楽を、フランス最高水準のビッグバンドの実際の演奏で聞きながらスコアも見て思う存分勉強できるという、とんでもない幸運にめぐまれそうである。
フレッドさんは、「最近の生徒たちはシュナイダーなんて演奏したくない、それより自分の曲がやりたいって言うんだぜ。そんなんで何が学べるかよ?」って文句言ってたけど、まあ、エゴを燃やすことに集中するのは若い世代の特権ですから。大丈夫ですよー、私のような年になると学ぶ気満々ですから(笑)あ、だいたいフレッドさんと同い年か。
同時進行で、例のロンドンのビッグバンドでは自分の作品とアレンジを実際に演奏してもらえることとなって、実際に自分のスコアを色んなところに頭を下げて運んで「演奏して頂けないでしょうか」と探さなければならないストレスって本当にイヤだから、それもあって本当につるっとやる気が出てきた。
なんか、出し惜しみとかテリトリーみたいなのがフランスって多くてやりにくいから、こう言う「一緒にやろうよ!」っていうシンプルさって気持ち良いよなあ、と思う。だから早くロンドンにも行きたい。パリからユーロスターでたったの1時間半だっていうのに、そこは全く違った世界らしい。
もう一つは、1月に自分のパリ19区ジャック・イベール音楽院で、先年亡くなった作曲家・棚田文紀さんの追悼コンサートを自分で企画し、オーケストラのために「セレスト」という曲を書いたこと。
このコンサートでは、メインが棚田作品から一曲「サマーウインド」(合唱付)のオケ曲をなんとモーツァルトのレクイエムからの抜粋と一緒に演奏する、そして前座として棚田さんのために4人のコンポーザーがそれぞれ進呈するという、ステージに110人以上が乗る大企画!
この企画には、相方のギタリスト作曲家アタナスにも「棚田さんのためにやろうよ!」って声をかけて、彼もこの1ヶ月で一曲を、人生初のオケのための「リマインダー・サウンド」という曲を書き上げた。これも全て棚田さんのおかげである。
この夏は、二人とも「この続きはどうなるんだろう?」と小説でも読むようにスリル満点でお互い書き進めてきた。自分でもどうなるか分からない、それこそが作曲の醍醐味、そしてそれは即興とも通じるところがある。この二つの性質が全く違ったものだとしても。
だからこの曲たちが来月の新学期から指揮者と演奏者の手に委ねられ、どのような船出を果たして行くのか。それはもう未知数で、楽しみでしょうがない。
昨日は人生で初めて見た日蝕で、異世界とこの世界が交わるような殆ど怖い瞬間を体験したが、幸いなことに棚田さんは、常に異世界から、私たちが迷わないように、指針を下さっているようである。
日蝕1日前の不思議な夕日。

