新学期って言いながら、もう3か月目に突入している。10月には日本にまで行ってきた。
ここまで文章を書かなかったのは、もうめちゃくちゃサックスを練習するのに夢中だったからである。
なんでサックスかと言うと、ものすごく紆余曲折があって一言では説明しにくい。
私はひょんなことからパリ市立19区音楽院というところにもう20年ほど前から所属することになり(教えることになった、と言うより「所属」という言葉を使うのは、もう、そこに部屋を借りて住み着いているのでは、といった風情だからである)
その音楽院で18年前に「即興アトリエ」と言うのを開いたのであるが、時を追うごとにどんどん生徒数と楽器の種類が増えて、生徒のために編曲をする作業に追われるようになった。そこで数ある移調楽器についても勉強せざるを得なくなったのである。
そうこうしているうちに音楽院の小学生向けプロジェクトに参加するようになり、これまでに書き溜めていた曲を自作自演複数楽器で録音したCDをリリースしたばかりだったので、今度はループペダルを使って自分一人で演奏できるように編曲し、その機会を使って発表するようになった。
最初は一人っきりだったのが、他のプロジェクトをやっているグループのコンサートでとんでもないドラムスを叩いていたエッジと知り合い、(今では一緒に即興アトリエで教えている)、3年前に小学生プロジェクトの責任者として赴任してきたマチューが、素晴らしいベースを弾くことが分かって加わり、エッジのアイデアでサックスのセヴリーヌが加わって、今のレ・スピラルが生まれた訳である。どんどん編成は大きくなり今年はハーピストも加わるので、現在ハープについて勉強中。そのプロジェクト為に新たに作曲したり、「即興アトリエ」や生徒たちの為に作曲しているうちに、あれよあれよという内にフランス-アンティーユ-日本で「シンフォニック・オーケストラ」の作品を書くまでに、雪だるま式にどんどん編成が大きくなってしまった。
さすがにオーケストラまでいっちゃうとどうしても専門知識が必要になるので、この辺から昔からの大親友、大先輩である故棚田文紀さんにオーケストレーションを本格的に見てもらい始めた。
このように、私にとって「即興/編曲/作曲」というのは、どれも必然的に発生したもので、分け難い関係性にあるのである。
で。思うに、こうやって書いてせっかく勉強もして書いてきた曲たちを音楽院以外で発表しないと勿体無いよな?と思って、とりあえず何かのコンクールに応募しようとしたのだけれど、何せ私の曲はジャズ寄りなので、「現代音楽作曲コンクール」みたいなのだと完全なお門違い、ピーッと笛を鳴らされてオフサイドに追いやられることは必至である。
では「ジャズの曲で大編成」っていうと、うーん、どう考えてもビッグバンドしかないじゃん。ってことで、最初にネットで目についたコンクールに見よう見まねで必死でビッグバンドのために自曲を編曲し直して応募する。
この6月のことである。そのビッグバンド作曲コンクールこそが、私の新しい作編曲の師となったイギリスのカラム・オーさん主催のコンクールだった訳だ。
受賞は逃したものの、膨大なフィードバックを返してくれたカラムさんのビッグバンド作品、編曲の仕方を深く聴いていくなかでその即興演奏と厳格なエクリチュールの融合する世界に完全に魅了され、ノックアウトされてしまった私は、長年やってみたかったサックスをついに始める決心をしたのである。
金管楽器だってすごく吹いてみたかったけれど、フルートとサックスが両方吹けるのが一番ビッグバンドへの近道かも!サックスは一番フルートに指遣いが近いというし!作品が書きたいなら本当のビッグバンドの中で吹くしかない!という単純な了見であった。
唯一、「フルート&ピアノ」という思いっきりin Cの世界でやって来た私が、本当にこの移調楽器でインプロビゼーションが出来るのだろうか?ということが懸念だったのだが、これは思ったのとは真逆に素晴らしい効果を産みつつある。
それは、サックスで即興する程に、どれだけ自分が「絶対音感」に縛られていたのか?ということを実感するからである。
時々ずーっとサックスでインプロを練習していると(どんなスタンダードでも良いわけだけれど)、まだまだそこまで行き着けることは少ないのだけど、ふわっと一次元自由度が上がるのが感じられる。それは明らかに、これまで必死で目印にしていた「絶対音」から解放され、「相対音」で即興できている瞬間だ。まさにそれは異次元の世界である。
その感覚を求めて、気がつくと何時間もサックスを吹くのに夢中になっている。
新学期が開けると、早速自曲を演奏してもらえそうな同胞のパリ市内音楽院を当たってみた。そこで門戸を開いてくれたのがパリ11区音楽院、ジャズ科が有名な音楽院の内の一つである。
果たして、そこのビッグバンドには、パリ市内から集まった若きジャズマン達が集まってきていた。そこにそーーっと混じるフルート教授(笑)
第一回目の練習。デイヴ・ホランドの曲を初見して、指揮者のジュリエットさんが「私ケニー・ウィーラーの曲も好きなのね。」っていうから「え!まさかあの、ラージ&スモールアンサンブルのCDのやつとかやります?!」って聞いたら「ああ、組曲ね、いいわね、やりたいわね」って言って、その次の回にはウィーラーの組曲の一楽章を自身で書き起こして来てくれたのである。なんとサックス始めて5ヶ月で、今一番ハマってる大好きな曲をビッグバンドで演奏できるという幸運に恵まれたのである。デビューは唯一人員が足りないソプラノサックスであった。フルーティストだから、一番高音のポジションというのは馴染みがあってやりやすい。
色んなレパがあるビッグバンドの中でも、今一番勉強しているブリティッシュジャズをやっているところに身を置けたというのは、本当に偶然の生んだ賜物であった。
ビッグバンドといえば、ちゃきちゃきパリジャンなビッグバンド「ル・サークル・ドゥ・タンパン(鼓膜の祭典)」と我らが「即興アトリエ」の共演プロジェクトがスタート!え、またまたビッグバンド?!色んなラインが何故か偶然に交わってきている。
楽器の中には小さな世界がある。そして楽器を通して世界を理解するのは素晴らしい事だ、演奏することも、そして楽器のために書くことも。どっちも好きすぎて、時間をどう使うか迷ってしまうぐらいだ。

