ユニバーサル | はい、がんなんですけど

はい、がんなんですけど

肺がん(肺大細胞神経内分泌腫瘍=LCNEC)ステージⅣと診断されたおっさんのゆるい毎日。

がん患者の中には、罹患前に出来ていたことが、例えば手術後には思い通りに出来なくなったという人も、きっといる。

もちろんそれは、がん患者に限ったことではなくて、他の病気や怪我で、日常生活動作に不便を感じるようになるということは、往々にしてあることだ。


日常生活動作とは、椅子から立ち上がって何かの用を足すだとか、歯を磨くだとか、箸を使ってご飯を食べるだとか、普段の暮らしの中で何気なくやっている様々な動きのことだ。

それまで考えることなく“普通に”出来ていたことが、誰かの手を借りなければ出来なくなるというのは、けっこうなストレスだと思う。いや、ストレスどころか、絶望すら覚える人もきっといるんじゃないか。


そういうストレスや絶望から、少し解放されるツールというのは、割とあるものだと思う。松葉杖だとか車椅子だとかは、そういうツールの一種だ。聞こえに不自由のある人には、補聴器がそういう存在だと思う。

でも、そうした「動作を補助する」ものではなく、誰でも日常生活で使うものが、自分の不自由な動きでもさほどストレスなく使えるようになっていることは、案外少ない気がする。


まさにそんな商品を実現した会社がある。

松江市にある小さな縫製工場が作ったスルースリーブというシャツが、それだ。
スルースリーブの売りは
片手で楽に着れる
ことだ。
このシャツを開発した会社を、仕事で取材する機会があった。

スルースリーブは、脇とボタンに工夫がされていて、例えば脳梗塞の後遺症などで半身麻痺のある人でも、片方の手が使える人なら、一人で着て一人で脱ぐことが出来る。

このスルースリーブが、IAUD国際デザイン賞で銀賞を受賞した。


IAUD国際デザイン賞とは、団体のホームページによると
一般財団法人 国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)は、「ユニヴァーサルデザイン(UD)の更なる普及と実現を通して、社会の健全な発展に貢献し、人類全体の福祉向上に寄与すること」を基本理念として活動しています。 IAUDはその活動の一環として、民族、文化、慣習、国籍、性別、年齢、能力等の違いによって、生活に不便さを感じることなく、“一人でも多くの人が快適で暮らしやすい”UD社会の実現に向けて、特に顕著な活動の実践や提案を行なっている団体・個人を表彰する「IAUD国際デザイン賞」を実施しております。
つまり、デザインによってみんなが幸せになれる社会を、目指しているって解釈で良いんだと思う。
けっこう権威ある賞を、島根県の小さな縫製工場が受賞したなんて、本当にすごい。

取材中に分かったことだけど、社長の福田さんは、数年前に妻を肺腺がんで亡くしたそうだ。
8年に及ぶ闘病期間だったらしい。
スルースリーブシャツは、妻の死後、脳梗塞で半身麻痺となった人のために開発したものだそうだけれど、開発してから少しずつ考えが変わってきたと、福田さんは話してくれた。
大きな病気をしたり、怪我をしたり、年齢を重ねたりすることで、それまで出来ていたことが出来なくなるということは、誰にもある。
それは、“普通”が失われることと、言い換えることも出来る。このシャツは、その“普通”を、身近に置いておくためのもの。
この話が、俺にはすごく刺さった。

スルースリーブシャツは、別に片手をうまく使えない人のためだけにあるのではない。誰がこれを身に着けても良い。
普段着として、または少しお澄ましする外出着として、どんな年齢のどんな立場の人にでも選ばれるシャツだ。
あなたも私も同じ社会の一員
そう胸を張れる人は、決して多くはないけれど、このシャツを身を包むことで、ほんの少しでもそう思えるとしたら、ちょっと幸せなんじゃないかと思う。

 

 

ランキング参加中

 

にほんブログ村 病気ブログ 肺がんへ
にほんブログ村