腫瘍手術の経過(最新ペット医療事情) | An Ulterior Weblog

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前回、飼い犬の腫瘍について述べた。結果は放射線治療ではなく手術によって1回で終了。手術は3時間半に及んだ。術後2週間で抜糸し、次は半年後にレントゲンで再発していないかを診る(血液検査では現状でも判定不可)。1年後も検査して再発なければ腫瘍とおさらばだ。現在、長寿命化で犬の半分以上が癌で亡くなる。我が犬は特殊な事例になるが対処の内容は参考になるかもしれない。犬の鼻腔内腫瘍の手術例としては最新のものになると思う。人間の話も入れている。

 

まず、なぜ犬の異変に気付いたか。
久保俊治著『羆撃ち』を読んでいたからである。読んだ理由は全く別だが、狩猟を共に過ごした子犬から飼育していたアイヌ犬フチ(アイヌ語で「火の神」)が腫瘍で亡くなることで本書は終わる。問題になっていたのが止らない微かな鼻血だった。個人病院ではわからず、帯広畜産大に行ったときにはすでに手遅れの状態。鼻腔腫瘍で、知合いの小樽の獣医のところで最後の望みで手術を試みるが、しばらくして再発してしまう。当時は放射線治療は確立していなかったようだ。

我が犬の鼻から血が滲んでいるのを見つけたとき、これをすぐに思い出し、病院へ駆け込んだ。かかりつけの近くの病院はレントゲンはできるが手術とかCT検査はない。ネットで腫瘍では放射線治療が圧倒的とわかると(多くが末期で手術できないため)、レントゲンで腫瘍を見つけても、大きな病院でしか治療はできないから、大病院と繋がりがありそうなところを探すことにした。『羆撃ち』でも書かれているように、個人病院でははっきりしないこともあるので、知合いから数人で治療にあたっている病院を紹介してもらい、そこから繋いでいけるだろうと迷った末にかかりつけ医を外した。

1時間半車を走らせて行って、レントゲンを撮ると中央の骨は綺麗に残っている(末期では腫瘍に溶かされて消失)が左の鼻腔全体が薄く白くなっていた(何も無ければ真っ黒)。ショックだった。先生は一般に鼻炎の可能性が高いからと抗生物質と消炎剤投与を提案され、2週間様子見となった。

 

症状はすぐ改善。血は出なくなったし、鼾もほぼ消えた。これで済んでくれればと思ったがそうはいかなかった。薬が切れた途端、また鼻息がフガフガと音を立てるようになった。鼻で息をすることが難しくなり始めていて、鼾も酷くなった。腫瘍で詰まってきたのだ。再度のレントゲンでは影はよりはっきりとなってきた。CT検査からすぐ放射線治療に移れる大学病院に行くしかないと告げられた。抗がん剤の処置はできるが、効きが悪く副作用も大きいから最初の処置向きではないと言われた。後日、自分のスケジュールを見て、ある大学病院への紹介をお願いした。

 

病院選択はこう。
よい放射線治療ができそうなところをいくつか教えてもらった後、それらのサイトの治療内容と評判を探した。案の定、口コミは科学的にも信用上も当てにならず。ブログも少し見たが自分の希望と違う。治療内容を詳細に開示している大学病院は限られていた。そこから、放射線治療ではこの2つに尽きるというところまで行った。特にその1つは詳細な治療内容の記述と効果分析の記載があった。何とか通院可能な範囲であったことも理由ではあるが、最悪入院形式で渡すこともできる。決め手は治療内容。複合放射線治療で劇的に再発を抑制できる可能性があった。そこまで示しているのは他になかった。予約を取ってもらうと2週間超も後になった。鼾がますます酷くなり、毎日気が気でなかった。寝床をクレートの近くに移し、夜中に苦しむ犬の体を摩る日々が続いた。

 

大学病院での初日。CT検査(レントゲンは人間が押えて撮影、CTは麻酔)と鼻の孔から細胞採取。麻酔をかけたので引取りまで2時間半かかった。固くなった鼻糞でしたという笑い話なら歓迎だと願った。結果はステージⅠの鼻腔腫瘍。手術可能で1回で済むと言われた。しかし、推定年齢12歳の我が保護犬、難しいのではと訊くと、12歳なら全然、鼻腔部だけで、それに見ていて元気ですしと。全身麻酔に耐えられれば体力十分で、14歳や15歳あたりになると厳しいけれど、おたくの犬は大丈夫と言われ、一週間後と決まったというか決められた。早期発見が増えてはいるが、つい最近まで手術できるのは年に1例程度しかなかったという。それほど末期が圧倒的なのだそうだ。望みがつながった。そのときに、先生自らの最近の英論文を渡された。たぶん、サイトの治療内容でここにしたと言ったからだろう。手術日までの間、ノーベル賞で話題になったオプジーボと機能的に似た分子標的療法薬(パラディア錠)投与となった。細胞への直接攻撃はせず、腫瘍細胞特有の栄養補給機能分子に作用して弱める薬だ。なお、鼻腔内腫瘍については抗がん剤治療は確立していない。一般的に効くか効かないかはっきりとした相関が得られていないのだという。

 

自宅に戻ってからは論文を読み込んだ。専門医療用語だらけの上、一体どの部位のことを言っているのかわからないことしばしば。熟読したところ主要点は2つ。1つは手術ができるかが大きな分かれ目。もう1つは手術と放射線治療のどちらでも大学独自の処方が入っている。
放射線治療の場合、特殊な増感剤を同時に投与して腫瘍増殖を驚くほど抑えることが可能となっている。これが自分が選択した理由であった。我が犬は外科手術の方なので論文(2015年年末公開)はそれに関したもので、4つから構成される。切開後の腫瘍の切除、光学活性剤+可視光照射、電子ビーム照射、縫合後の放射線外部照射である(現在この照射はやめている)。つまり、治療は腫瘍本体から内面粘膜、そして内部組織へと徐々に内部深くを攻め、腫瘍細胞の根絶を段階的に図っていることがわかった。論文ではそれらの効果や再発についての考察も書かれていた。これ以上は原理的に望みようもないだろうと納得し、改めて大学選択が正しかったと思えた。

 

加えて、職場で自身の癌で放射線治療を経験した人物がいたので訊いてみた。基本的に火傷を起こしているようなもので、体内の粘膜がただれたり、摂食できず胃瘻一歩手前まで行って、辛くて大変だったという話だった。人間の場合、局所で66Gy(グレイという照射全量の単位)が限界で、それをできるだけ短期間に浴びせる。日にちを空けると腫瘍はすぐに復活し、効果を失わせるので、患者の体調を無視してでも浴びせ続けるのだという(犬の場合は論文で50Gyだった)。一度浴びせた所は再発してももう放射線は当てられない。正常細胞が癌化してしまうからである。そうでなくても2%の確率でそれが起きるため、訴えないよう治療前に必ず同意書にサインが求められるという。副作用は短期の火傷に限らず、長期的には浴びたことで体細胞の様子が変わり、何年もあとになって体の様子が変わっていくという(晩発と言われる)。場所によってはその後の生活にも制約が生じたりする。軽い運動でも禁止されることもある。
傷口は残っても手術だけで防げるなら、そっちの方が断然いいと本人の口から聴いた。詰まる所、人間と犬や猫に大差は無い。4つめの放射線外部照射はやめたいと思い、当日要望しようと決めた。こういうのは事前に電話やメールで済ますという類のものではない。直に面と向かって真剣に話すべきものだ。家族の一員の命がかかっているし、相手もそれなりの自負と覚悟を持って動物の治療に当たっているのだから。

 

いよいよ手術の日。起きてから犬はいつもと様子が違っていた。今日は特別の日だと察知でもしているかのようだった。ご飯をねだることも、散歩の催促もなかった。
長時間、車に揺られたあと、診療室に入る。先生の後ろには4人の医学生がいた。同席には同意書にサインを前回の段階で済ませている。今回の方が多い。前回の細胞検査の説明で、体細胞ではなく神経細胞の癌化という初めての例だと言われた。多くの症例を持つその大学病院でも前例がないという。ほかのところからの情報を得て、通常の処置で大丈夫と判断したとのことだった。また、出血が激しくなるので、両側の頸動脈を一時的に拘束。輸血の必要がないという(『羆撃ち』では他の大型犬を連れてきて貰っていた。犬の血は保存不可と聞く)。その上で、論文を元に内容を確認した。手術の場合の4つめの放射線治療をやめたいと伝えると、効果が見られないとしてすでにやめており、3つの処置だけで費用も下がるという。すでに論文の段階から進んでいた。その他、細かなことや術後のことなどいくつか伺い、納得して犬を引き渡した。合併症が怖いので二日後に引取りに行くこととなった。最初の受診票にはフードの銘柄を書く欄があった。お泊りに際しては飼い主からのものは一切受け付けていない。感染症防止のためだろうと思う。食事はどうなっていたかまでは訊いていない。

自宅に戻ったあと、16時前に携帯に電話があり、他の手術が伸びて遅れたが今から手術にかかると連絡があった。そして、20時前に手術が終わったとの連絡。術後は先生自ら朝と午後の散歩と食事を行い、様子をメールでわざわざご連絡頂いた。こういうのは昔ならあり得なかった。引取り時に、手術のときにはパラディア錠で腫瘍が縮小していた(手術前もたしかに鼾がとても静かに)と言われた。今後はこれまでどおりの生活をして問題ないこと。再発検査は半年後にレントゲンを撮ることなど、いくつかの確認をして、用意された薬を受け取った。薬には抗がん剤は入っていない。効いているのが治療か薬かわからないからである。投与した方がいいだろうが、後々治療法の改善のために、効果があるのかどうかをはっきりさせて処方選択をできるようにするのだろう。効くのであれば、再発から投与でも間に合うことは今回の手術ではっきりしている。

 

顔の中央に思いっきり切り傷が走り、縫合の糸が剥き出し。痛々しい。手術では左鼻腔内に広がっていた腫瘍と浸潤していた鼻腔内中央の骨はほぼ取られている。左前脚にも毛が剃られた部分があり、麻酔注射のためのものだった。家に戻ってからはクシャミの度にあちこちに薄い血が飛ぶ。それだけではなく、額のあたりが息の度に膨らむ。腫瘍除去で開けた目頭の下あたりの頭蓋骨の孔(ここが腫瘍発源の場所)から空気が皮膚下に入り込む。皮下気腫と呼ばれる。それが全身に回るのを防ぐのと、輸血回避で頸動脈を止めた2箇所の傷口保護のためにムチウチ症のように首に分厚い包帯のようなものが巻かれていた(骨と皮の癒着が進んで皮下気腫はいずれ消える)。当然のごとくに傷口を掻くようになり、急遽、エリザベスカラーをペットショップで購入。そのままでは広がり過ぎてクレートに引っかかって困るなどしたので、挟みでコンパクトに加工した。食事、散歩はいつもどおりだが、草むらには入れないように注意した。鼻は炎症しているわけだし、傷口にいろいろ触れるのもよくない。

 

皮下気腫が酷くなり、ボーダーコリーがチャウチャウのようになっていった(触るとぽこぽことBGM付きで頭が変形)。ただ、首の包帯が効いて、胴体には見受けられない。何もしないと柴犬が全身もこもことハムスターのようになることもあるという。傷口の動きも皮下気腫もだいぶ収まってきた2週間後、最後の訪問。抜糸をして(縫合は大まかに内外の2層で、表出の部分を除去。内部のはそのまま溶けていくのを待つ)、ようやく普通の生活に戻った。念のために抗生物質をもらい、我が犬の腫瘍騒動は一旦幕引きとなった。慢性鼻炎のようなものは相変わらずあるが、これは手術した以上は少なからず残ると事前に言われていた(同じ鼻腔で再発だと気付きにくいかもしれない)。手術時に剃ったところも毛が生えてきて、あとひと月ほどで普通になるだろう。それ以外は腫瘍からの回復のためのエネルギー補給で食事量を少し多目にしている(蛋白質と脂肪を増やし、炭水化物を減らした。腫瘍の繁殖を抑える構成)。やっと平穏が訪れた。この一連の過程を経たせいか、犬はより家族の一員のように振る舞うようになった。
ちなみに今回の2つの病院を梯子した全部の医療費は総額で50万弱。ガソリン代や高速代を考えると60万は越えているはずだ。保護段階で高齢だったこともあり、保険には入っていない。実際にはいろいろ制約があって1万円しか出なかったという話もあるし、ほぼ全額出た人もいるようだ。

放射線治療は一か月ほど続く。肉体的にも費用的にも大変だ。それに比べれば発見から2カ月、長いようで比較的短期間で勝負をつけたといえる。あとは再発が起こらないことを祈るのみ。(手術や放射線治療はまた可能だそうだが…)


さて、大学病院名をあげてないが、特にサッとブログを眺めて情報だけがほしいような人に限って何だと怒ることだろう。書いてきたように、今回のことでいくつもの局面を迎え、その度に重要でリスクを孕んだ決断を強いられてきた。かかりつけを無視し、治療法でどう大学を選ぶか、医者と話をして治療内容に納得できるか、術後の対応などなど。
今は自分はやるだけのことはやった、悔いはないと言える。実際にはここに書き切れない多くの葛藤が家族内で起きている。苦しみながら道を選んできた。それは飼い主の責務だし、納得してそれが完遂できるかは飼い主の努力にかかっている。家族の一員の命が決まる。それを他人の情報に委ねるなど考えもしない。たしかにブログで詳細に書かれているものもある。しかし、我が犬は手術になった。少例であり特殊な腫瘍だった。治療は他の腫瘍と同じだったかもしれないが、直接参考になるものはなかった。だから、中身についてはいろいろ書いたが大学については書いていない。内飼いで犬の寿命が大幅に延びて癌が死因の半分を超え、人間の治療と同等のものも受けられる現代、病院や治療の選択は飼い主が自力でやれる条件(送迎や金銭など)のもと、自分で調べて判断し納得するしかないのである。事実、最初の病院と大学病院と同窓でとても良い連携が取れていたけれども(メール内容を見せて頂けた)、全て細かく把握しているわけではないし、患者もとても多いから、今後について結局、自分で最初の病院にレントゲンを集めることにし(術後の1回含め、3回撮影)、受ける時期や見つけたときは有効だったパラディア錠で叩くとこちらの意志を伝えている。大学病院まで行かずに初期に押え込んで手術を回避する狙いだ。その頃、もう我が犬には移動と手術に耐える体力が残っていないと思うからである。
東京から京都へ新幹線通院した、札幌から藤沢の日大に北斗星で通った、逆に東京から北大にといった人の話もずいぶん知合いから聞いた。しかし、実際やってみると、ボーダーコリーでは肉体的精神的負担になり現実にはできない。少なくとも我が犬では無理だ。手術と移動のストレスか、術後の体力消耗(回復のために食事量は増やし気味がよい)か体調を一度崩してもいる。それでも、通院可能で一番納得できる病院で治療を受けることができた。あと2年も生きるかどうかだが、苦しむ姿を見続けながら死を迎えることに耐えられないと家族。妻が保護犬の我が老いた犬と顔を合わせて「おまえはいっぱい運を持ってるね。」と言ったのが全てを表している気がする。

 

 

よく芸能人などで民間療法で、現代治療を拒否したような話を聞く。事実としたら愚かだ。手術による除去が何より効果的だし(とにかく原因の大元の腫瘍部を断つ)、放射線治療や抗がん剤などはあくまで補助的なものではあるが、それでも苦労した研究の結果考えられている。何も治療法がなかった時代は民間療法に頼るしかなかったが、癌というものが理解されてきた現代ではそれに見合った治療法を受けるべきだ。それは犬も人も変わらない。何より、今回の我が犬のように一にも二にも早期発見である。

(こんなのは飼い主失格http://www.mone-pet.com/blog/dogs/2015/06/)

一方で、犬よりも飼い主側が危機的状況になってしまっている場合の悲劇もある。犬および飼い主に幸あらんことを。

https://ameblo.jp/sora-chiisana-inochi/entry-12402924672.html

 

※※

病院に来られていた別のご年配の夫婦がゴールデンレトリバーを連れていた。担当医が同じだったので互いにお話しした。9歳でずいぶん元気な犬だったが、うちと同じく鼻血に気付いて最初の手術をしている。1年後にまた鼻血で再発。2度目の手術では鼻腔中央の骨を取って戻すという豪快な手術をしたという。それから3ヶ月でまた鼻血で今回再々来院。外観からは傷もわからず、とてもそんな風には見えなかったが、担当医からは手術も3度目はないと言われ(鼻腔だけの話ではもうないと判断したと思われる)、放射線治療を奨められたものの、副作用が後できつくなるので、抗がん剤を希望したという。人間に処方するようなものを使うので費用がとても高くなりそうだとのことだった。比較的近くの住人らしかったが犬の余命はまだまだあるから大変である。

 

※※※

高速を使っても往復移動だけで半日以上が軽く潰れる通院だった(平日では休みを取った)。少しでも費用を抑えようとタイヤの空気圧を上げて燃費向上を図ったが、おそらくその効果は概算3千円か4千円程度。それよりはいかに渋滞をさけて運転時間を短くするかの方が有効。難しい手術や治療ができるところは全国をみても恐ろしく少ない。東大ですら学界は別にしても臨床として頭角を現せないでいる。医療費もさることながら、通院がネックになる可能性があることをペットを飼われている方は頭の隅においておく必要がある。加計学園はそういう中で空白域に中核となるように新設計画されたものである。理念としては間違っていない。残念ながら単に野党の道具と化してしまっているが。