受験真っ盛りである。
最近、代ゼミ講師の佐藤ヒロシ著『実は知らない英文法の真相75』というのを手にした。こう言っては何だが、やはり予備校の先生は概してダメである。ずいぶん歴史的に戻って調べてしっかりしているところがあるかと思うと投げやりとしか思えない部分もある。信頼は置けない。
まずは次の文を。
I need something to look forward to to get me through this shitty week.
あまり品のいい例文ではないが、ここでは look も to不定詞になっているので to が3つある。多くの学習者は困惑するか、これは getting の間違いだと意気揚々になるかだろう。この文については後で話す。
さて、先の本に戻って、センター試験例として挙がっているのが以下。
I'm really looking forward ( ) there again.
①go ②going ③to go ④to going
もちろん、④が正答。これは③の to不定詞との引っ掛け問題なのは勉強した人は承知のはず。しかし、なぜ④なのかと訊かれるとたぶん答えにくいと思う。それを本書で p.74 から説明している。それによれば、学校文法では to が前置詞だからという説明がされるが、to不定詞の to も前置詞だから説明になっていない、本当は doing の性質によるもので、実行が前提になっている場合、気持ちの上では実現済みとの意識からだという。
I'm really looking forward to going there again. またそこに行くのを楽しみにしています
は実際に行くのは先でも、気持ちの上ではもう行っているから、現在か過去に対応する doing が適切で、未来の行動を表す to不定詞にはならないと。
違うだろう。
ネットで、なぜ to のあとが動名詞なのかと説明をしているサイトがほかにいくつもあるが、2,3見たところではその説明は上記とも違うし、それぞれも異なっていた。私の感覚はそれらとは一致しない。
まず、look forward to ,というのはどういう構成かと言うと、自動詞 look に前置詞 to がついて、見つめる意の look at の at が to になって少し違う意味になっているだけだ。forward は副詞でそれを説明や強調するために動詞にくっついてきただけで、基本は look to。意味は
・目を向ける
・面する
・傾向を示す
・~するように気をつける( look to it that ~の形で)
・世話をする
・期待する、当てにする
といったところになる。さて、 look at と同じで look to もその先に目的語が必要だ。to が前置詞だから当然、名詞相当のものが来る。人物だったり、事象だったり。すると論理的には、
1) look to (it , that, somebody, something, etc.)
2) look to (doing something)
3) look to (to do something)
4) look to (that S V...)
といったものが考えられる。( )の中が名詞相当だ。例えば、
We look to you for help. あなたの助けを頼りにしている
は1)に該当する。
US companies look to doing long-term business in Vietnam. 米企業はヴェトナムでの長期に亘るビジネスを当てにしている。
は2)に該当する。4)については調べ切った感じはしないが、見たことはない。理由は to は that節を持てない。一般に前置詞は that節が重すぎて支えることができない( in と except の2つのみ例外)。一旦、他の名詞を置いて同格接続詞もしくは関係代名詞で付加するか前置詞を落とすということになる。
Look (to it) that this does not happen again. 二度とこんなことが起きないよう注意しろ
to it を落とした場合は look が自動詞から他動詞に役目が代わったことになるが、意味は変わらない。
ここで問題が3)。一般に不定詞は前置詞の目的語になれない(例外がごく一部ある)のと、言おうとしても言いにくいこと。つまり、この形は許されない。そのせいか、次の表現がある。
I look to hear from you soon. すぐのお便りお待ちしています
学者ではないので、歴史的なことなどあまり知らないが、3)が効率化された形で変質したと考えられる。本来は左の to は look に強く付随していて、その後の to は不定詞の塊として存在していて、機能的には全く別の役割のはずなのだが、兼用させたと見ることができる。もちろん、am looking と進行形にして感情を強めることができる(著者が主張している現実感はむしろこっちで表す。動名詞の方ではない)。つまり、
I am looking to hear from you soon.
I am looking (forward) to hearing from you soon.
の2つは意味は同じ。前者が米語に多いという程度の違い。実際にこのように to不定詞の文もあるが、両者はその元となる文の構造の起源が違うため、to の後が原型と動名詞の差となったのだろう。
さて、ここからさらに思考を進めよう。では、実際に
I am looking forward to hear from you soon.
とは言わないのかというと、これが稀にだがある。新しい辞書には挙げているものがある。どうしてこうなるかは、やはり効率化による崩れと look + to不定詞との混用と考えるのが妥当だろう。ただし、ちゃんとした英語を学んでいないと受けとられる可能性は高い。言葉は変化する。以前は明らかな誤用でも時代の変化で正用になることがある。さらに同じ意味で look for というのもあることはあるが、これはネイティブでもかなり古い感じがするようだ。両者の違いの感覚まではさすがにわからない。
I am looking forward to hearing from you soon.
と受験生は今のところは正統的な用法を覚え、それを使うようにした方がいいが、現実にはそうでない場合もある。そのときに、これは正統的な語法に準じてないからダメ、とするのはあまりに狭隘だ。余力を残しておいてほしい。使うことは避けても混乱せずに読めるようにはしておきたい。
最後に冒頭の英文に戻ろう。
I need something to look forward to to get me through this shitty week.
このつまらない週の間、自分をとりこにしてくれそうな何かがほしい。
上で説明したように本来は誤用である。look to get や look forward to getting なら問題ないはずだ。この場合は(to look forward to)がsomethingを形容してるという見方もできるが(意味的には少し難がある感じ)、実はこれまた稀に to不定詞をそのまま使われることがあるらしいのである。たぶん、勢いでそうなってしまうのだろうと思うが、真似るのはやめた方がいい。もっと激しいところでは、
We look forward to to maximising the value of this well-located and popular retail park.
We look forward to to your visit!
という使い方まである。誤植かと思ったが、どうもそうではないらしい。おそらく、look forward to の塊そのものが1つの動詞にされているのだと思うが、このあたりになるとどういう捉え方が妥当なのかすらわからない。意味を取り違えることはないだろうが。
正しい英語を、と言うのは簡単。何が正しいかは難しい。ただ、我々は一般にこれまで正しいとされてきたものをしっかり身につけるに越したことはない。
と、look forward to たった1つでこれだけ大変というお話。