“痕跡器官”とされた脾臓の役割
人体には虫垂や扁桃腺(へんとうせん)、余った血流路など、痕跡器官と呼ばれる臓器が存在している。進化の名残ともいえるこのような器官は、あっても無くても人体にはそれほど影響がないと考えられてきた。しかし、医療研究技術の発達に伴い、痕跡器官にも実際には懸命に働いている臓器があることがわかってきた。 痕跡器官の好例が脾臓(ひぞう)である。最新の研究によると、損傷を受けた心臓の回復に欠かせない役割を果たしていることが判明したという。脾臓は腎臓に似た形で腹部の左上部分にある。感染を検知する役割や、損傷を受けたり古くなった赤血球を破壊する機能を持つ。しかしこの臓器を切除しても人は生きていくことができるので、不必要なものだと考えられてきた。
研究チームがマウスで調べたところ、多数の単球(単核白血球)が脾臓に貯蔵されていることがわかった。単球は白血球細胞の一種で、免疫防御や組織修復に欠かせない存在である。単球はほかの種類の白血球細胞と同様に骨髄だけで生成され、血流中に貯蔵されると考えられてきた。
しかし脾臓の単球は血液中の10倍余りに及び、血液より圧倒的に重要な単球の貯蔵庫であることがわかった。このような特性から、脾臓の役割は大きく見直されることになる。
医療技術が十分に発達した先進国の生活環境が、痕跡器官の重要な機能を見えなくさせていることもある。その典型が虫垂である。盲腸の端にぶら下がるように付いている細い管状の虫垂は、おそらく役立たず臓器として最も有名だろう。しかし、虫垂にも重要な機能があったのだ。
虫垂は役立たずどころか、実際には食料の消化を助ける善玉菌の貴重な貯蔵庫だった。「虫垂は、非衛生的で寄生虫の多い環境に合わせて進化した結果だ。下痢性疾患が当たり前のように広がる地域では、病後の腸内善玉菌の回復に虫垂が欠かせない」

