民事訴訟法第一問
一 公害訴訟や医療過誤訴訟等、専門分野にわたる紛争については、
争点の確定や事実認定等の全てについて、素人である当事者や裁
判所の判断に委ねるのでは過度の負担を強いることになるし、裁
判が長期化するおそれがある。
そこで、専門分野における争点整理または事実認定について裁
判所が専門家の協力を必要と認める場合に、法は一定の手続を定
めることとしている。
二 争点整理手続(92条の2)
1 裁判所が争点整理を必要と認めるときは、裁判所は準備的口
頭弁論(164条)や弁論準備手続(168条)、書面による
準備手続(175条)に付すのが原則である。
2 もっとも、前述のように専門分野における争点整理は、素人
である当事者や裁判所によるだけでは十分に尽くされない可能
性がある。そこで、このような場合に法は専門委員の関与の手
続を規定する(92条の2第1項)。この手続では、後述の事
実認定手続と異なり当事者の意見を聴いた上でなされることに
なっている。なぜなら、民事訴訟法においては判決の基礎とな
る事実と証拠の収集・提出を当事者の権能と責任とする弁論主
義を採用しているため、当事者の関与が不十分なまま争点整理
を行ったとしても争点が確定しないおそれがあり、ひいては弁
論主義が十分に機能せず、当事者にとって不意打ちとなる危険
があるからである。
三 事実認定手続(212条以下)
1 裁判所が事実認定をなすにあたっては自由心証主義(247
条)を採用している。ここに自由心証主義とは、裁判所が事実
を認定するにあたり、審理にあらわれた資料・証拠に基づき自
由な判断によって形成される心証に委ねる建前をいう。
2 もっとも、専門分野においては裁判官も素人なのであるから、
十分に心証を形成することが困難になるおそれがある。そこで、
法は特別の知識・経験を有する者を鑑定人として事実認定に協
力させる旨を定める(212条)。
ただ、争点整理手続と異なり、鑑定人を指定するのは裁判所
だけであり当事者には意見を聴く必要はない。これは、当事者
が提出した証拠からいかなる心証を形成して事実認定するかは
裁判所に委ねられているからである。
もっとも、偏った鑑定人により不当な事実認定がなされ、当
事者の利益が損なわれるおそれも否定できない。そこで、法は
鑑定人が事実認定に不当な影響を及ぼさないように、当事者に
よる鑑定人の忌避の制度を設け(214条)、また鑑定人に対
鑑定人質問(215条の2)の制度を規定する。
以上
民事訴訟法第2問
小問1について
一 小問1について
1 債権者代位訴訟は法定訴訟担当であり、甲の乙に対する貸金債権
の存否は、甲の当事者適格を基礎づけるものであり、訴訟要件であ
る。そして、訴訟要件は本案審理を続行して本案判決をなすために
必要なものであり、職権調査事項である。
2 もっとも、当事者適格は当事者の実在や管轄のような公益的色彩
は弱く、本案と密接にかかわる側面が強い。そこで、当事者適格を
基礎づける証拠・資料の収集提出は職権探知ではなく、弁論主義に
より当事者により行われることになる。さらに、法は本案審理に先
行して訴訟要件の有無を審査する建前をとらず、同時並行して審理
がなされる
3 よって、甲の乙に対する貸金債権の存否に関する裁判所の審理は、
当事者たる甲・丙が収集・提出した資料・証拠に基づき、乙の丙に
対する債権と同時並行で審理されることになる。
二 小問2について
1 乙の丙に対する売買代金債権が弁済により消滅したことが甲の乙
に対する貸金債権の存否の判断より先に明らかになった場合、裁判
所は直ちに請求棄却判決をすることができるか。
2 たしかに、訴訟要件たる甲の当事者適格の存在が判明したところ
で棄却判決は免れないのだから、裁判所は甲の乙に対する貸金債権
の存否の判断を省略して棄却判決できるとも思える。しかし、前述
のように訴訟要件は本案審理を続行して本案判決をするための要件
であり、これを省略することは許されないはずである。さらに、法
定訴訟担当においては後述のように判決効が被担当者にも及ぶこと
から(115条1項2号)、当事者適格の判断がなされないまま敗
訴判決の効力が被担当者に及べばその者の手続保障を害する。
したがって、訴訟要件の有無について審理を尽くさないまま裁判
所が本案判決をすることはできないと考える。
3 したがって、裁判所が当事者適格という訴訟要件たる甲の乙に対
する貸金債権の存否の判断を省略して請求棄却判決をすることはで
きない
三 小問3について
1 法定訴訟担当においては、115条1項2号により例外的に判決
の効力が争っていない被担当者にも及ぶことになる。これは、被担
当者に判決の効力を及ぼさなければ紛争解決の実効性が図れないし、
担当者による代替的な手続的保障があったと評価できるからである。
2 もっとも、判決効が被担当者に及ぶのは、担当者による代替的手
続保障、すなわち担当者が当事者適格を有していたことに由来する。
そこで、担当者が当事者適格を有していなかった場合には代替的手
続保障が図られていたとは評価できず、原則通り被担当者に判決効
は及ばないことになる。
3 したがって、甲の乙に対する貸金債権が存在するとの判断が誤っ
ていた場合には、甲による代替的手続保障があったとはいえず11
5条1項2号は適用されないため、判決の既判力は乙に及ばない。