KaNaDeに使用しているノボラック型フェノール樹脂は有機高分子物質で、熱硬化性樹脂である。
ブレーキパッドにも必ず使用している高ダンピング性.耐熱性樹脂で、NVH特性に優れている。
一度加熱して冷却したら、分子が網目状に広がって硬化し、二度と溶けない構造になる。
330℃まで劣化せず、それ以上の温度になると炭素化していく。
(身近に使用されているポリエチレン、塩化ビニール、ナイロン、ポリエステルなどは、熱可塑性樹脂といい、熱を加えると再び溶けてしまい、耐熱性、耐薬品性、ダンピング性が劣る。)
何故インシュレーターにそれほどの耐熱性樹脂を用いたのか。
耐熱性が欲しかった訳ではない。
硬化して網目状構造になったとき、金属バネの弾性性質とゴムの粘性性質の両方を持つ粘弾性体となるため、強い振動減衰特性すなわち高いダンピング特性が得られるからである。
機器やスピーカーのノイズの元となる、前に発生した音の残響微細振動ノイズを減衰させ適正残響量に調整させるために。
ではどのようにして、バネの特性とゴムの特性を持つのか。
かつて誰も視覚的に観察に成功したという論文はなかった。
そして、わたしはJEOLの協力を得、AFMという最新型の走査トンネル顕微鏡にて、樹脂の炭素二重結合の分子構造の観察に成功した。
先端が約2nmのシリコン単結晶を、限りなく平らに研磨したフェノールに近づけると表面の静電気力でシリコンがある一定の距離を保つ、それをX,Y方向に走査し画像化する。
観察中は少しでも振動すると像がボケてしまうため、部屋が2重構造の除振室になっており、サンプルを入れてから振動が完全になくなり測定開始まで1時間待たなければならない。
CTスキャンやMRIと同じように、距離から図式化した想像図だと考えると理解しやすい。
これである。
粒に見える1つの直径が、およそ5〜10nmと見受けられる。
フェノール樹脂の硬化模式図が下なので、ベンゼン環1つよりは大きいため、ベンゼン環が連なったいくつかの集合が1つの玉の様にボケて捉えられたものと考えられる。
球体と球体の間の空間の黒い部分は何もない空間であり、球体が動くための空間である。
この連なった球体がダッシュポットのように動くことで粘性が働く。
そして、ついに昨年ある研究所がベンゼン環をはっきりと撮影することに成功し、論文が発表された。
生きているうちに見れるなんて凄い。
機器も凄いだろうが、除振室はどんなに大きいのだろう。
何年がかりで出来たのだろうか。
凄い、人間の執念て。