(前回からのつづき)
私は7才で親元を離れ、巫女としてこのお社で育てられることになる。
私は母親が恋しかった。
たくさんの仲間がいたが、年を重ねるごとにライバルとして敵視されることが増え孤立した。
師匠は厳しい人だった。
姿が見えるだけで女の子たち全員が黙り、空気がピリッと冷たくなるような緊張が走る。
でも私は、そんな師匠が時折とても優しい眼差しをすることに気付いていた。
母親が娘を見守るような目をした師匠を盗み見ることが私の密かな喜びだった。
巫女は普通の女としては生きられない。
結婚し、子供を持つことはない。
ただもし、普通の女として生きて娘を持ったならば、こんな気分だったのだろうかと
師匠は時折弟子たちの無邪気な笑い声に目を細めていた。
それと共に罪悪感に苛まれる。
無邪気な女の子たちが、女として幸せに生きる道を、自分が閉ざしてしまったのではないか。
巫女としての自分の人生は、人間のドロドロとした汚さを目の当たりにし、嫌気がさして終わらせた。
この子たちにも同じ運命を辿らせるのだろうか。
結婚し、子供を持つ幸せもあったかもしれない自分を想像し、ため息をつかせてしまうのだろうか。
私は師匠の苦悩が手に取るように分かったがどうすることも出来なかった。
私が母親の影を師匠に求めていることも、
私の能力が特殊であることも、
師匠を苦しめていると分かっていた。
私の能力は日に日に開花していった。
暦はろくに読まないくせにシンボルを使いこなし策略と心理戦に長け、他と違う切り口で他を圧倒する。
(図形や策略や心理を操る方法はシリウスBでの記憶を使っていた)
師匠にとって私は脅威だった。
明らかに、生まれ持ったものが違う。
これが新しい流れであり新しい時代なのか。
自分はもう古いものとして消えゆく定めなのか。
今まで培ってきたものはもう必要ないというのか。
朝、目覚めるたびに身体に重みを感じる。
師匠はそれだけでもう、人間として生きることを放棄したくなった。
私は師匠にできるだけ長くここにいてほしかった。
できるだけ苦しまず、幸せを感じて生きて欲しかったが、苦しみの原因が私の存在であることがどうにもならなかった。
私が若君の専属巫女として正式に働き、師匠の反対意見を論破しいくつかの政策を実行・成功させたころ、師匠は山の奥の祠に隠居した。
しばらくしてから、私も王宮を離れそこへ行くことになる。
若君との今世は「信頼関係の愛」を学ぶためのターンであったにも関わらず恋愛関係に陥ってしまい、ミッションは失敗となったからだ。
巫女として生きることも、妾として側に仕えることも出来なかった。
祠に師匠の姿はもうなかったが、
何も食べず
何も飲まず
自然の大地を裸足で踏みながら
生命の歌と踊りを踊って尽きた師匠の晩年を波動で感じた。
師匠の息遣いや生命の残像を
土に返る葉や霧の中の湿気や木漏れ日に反応する若芽に感じながら
私も彼女と同じ運命を辿った。
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おしまい。
今世の師匠が、過去に出来なかったことが出来て、たっぷり幸せを味わって、今の自分に満足して、満ち足りた人生を送られることを願っています。
私の存在が脅威となりませんように…。
シンクロのメッセージは
春分前にすべて書ききれと私に伝えているように思いました。
新しい流れを受け入れる準備として。
HELIX