MENTAL HEALTH 5
「あなたの中に黒くて強固な結び目が見える。」
と言ったらこの人は何と答えるだろうか。
目の前でまくし立てる彼女をぼんやり眺めながら、そんなことを考えていた。
きっとさらに激怒して槍のような言葉を浴びせられるのだろう。
そう思うとため息が出た。
「え?ちょっと、聞いてます?」
彼女から、黒い煙が吹き出すように見えた。
煙は細かいたくさんの結び目となり複雑性を増した。
・・・
彼女と関わるのは億劫だった。
仕事上、避けられないから仕方がない。
他のスタッフにはすんなり通じる話が、彼女には通じない。
「え?どういうことですか?」
「え?どういう意味ですか?」
「え?私にどうしろと?」
「え?私が悪いってことですか?」
同じ内容を、言い方を変えて何度も説明しなくてはいけない。
ただ、事実を伝えるだけ、
ただ、希望を伝えるだけ、
ただ、変更を連絡するだけ。
なのに、彼女は自分が責められていると思い込み、目をつり上げて反論と弁解をまくし立てる。
そんな意味では言っていない。
あなたを責めるつもりはない。のに。
この攻撃性と疑心暗鬼はどこからくるんだろう。
固い塊となった結び目を眺めながらそう思ったとき、
結び目の中の古い扉がバックリと開いた。
扉の奥に別次元の映像が広がる。
3人の子どもが頭を寄せて何やら話し込んでいる。
幼い一人は泣いていて、一人はうつむいて困り顔。一番大きな少女はイライラしているようだ。
3人兄弟の、一番上のおねえちゃん。
それが彼女だった。
母親がやってくる。
私は悪くない。
私は悪くない。
悪くないのに怒られる。
悪いのは私じゃない。
同じような場面を何度もくり返す。
私は悪くない。
私はいつも誤解されてばかりだ。
怒られるのは私ばかり。
私は悪くない。
兄弟たちはずるい。
お母さんは私が嫌いなの?
彼女の中に発生した結び目は、回を重ねるごとに複雑で大きく、固くなっていく。
『おねえちゃんだから』
彼女は母親の些細な感情の揺れを見逃さなかった。
不幸なことに、最初の結び目が、母親の愛情ではなく憎しみに反応させてしまった。
敏感な彼女は鎧をまとった。
自分が傷つかないように。
繊細な彼女は武器を取った。
自分が傷つく前に攻撃できるように。
ただ、伝えているだけの言葉を、鎧で防ぎ剣で跳ね返す。
ああ、だからか。
他の人には通じる話が、彼女に通じない理由。
疑心暗鬼でまくし立てる筋違いな反論。
「あなたは悪くない。」
扉の向こうの映像に意識を向けて言葉を放つ。
「あなたは悪くない。
あなたが悪くないのを私は知ってる。
あなたを責めるつもりはない。
責任感の強いあなたを頼りすぎたんだね。
あなたの負担になってたんだね。
気付かなくて申し訳なかった。
つらい思いをさせてごめん。
でも私はあなたを信頼している。
あなたの存在に感謝している。
あなたがいてくれてよかった。」
彼女が、母親に言われたかった言葉だ。
結び目に光が入った。
固い塊が少し緩んだ。
私が彼女を紐解く義理はない。
ただ、そっと願う。
『おねえちゃんだから』
そう育てられたことで
責任感と気遣いが育まれたことに、
今の能力に結びついたことに、
母親に愛されていたことに、
彼女が自分で気付けますように。
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返答に「え?」と言うのは、ただの疑問ではなく怒りの現れなのだそうです。
「え?私の思い通りにならないのは何故?」
「え?私の理解の範囲を超えてるのは何故?」
みたいなジコチューな怒りね。
他人の「え?」に注目し、
自分の「え?」に注意してみて下さい。
そこにある怒りの理由は何なのか。
お話はフィクションですが、結び目のような黒い塊が見える(感じる)のは本当です。
※参照「解放」
おそらくそれは『固定観念』だと思います。
思い込みってやつね。
同じ場面を繰り返すことで固定観念は強固になっていくけど、ほんのちょっとベクトルを変えてやるだけで一気に解放されてゆく。
光が差すように、
氷が溶けるように、
自分で理解し納得できる…。
ヒプノセラピーで経験したことはそんな感覚でした。
ホメオパシーでも同じことをしているようですが、より深部で微細で繊細で、感覚を研ぎ澄まさないと実感しにくいのが難点です。
私にはビジョンで納得できるヒプノのほうが合っている。
ので、ヒプノセラピストとしての活動も今年はやっていこうかなと思っています。
あー、書いちゃったー。
から、やることになるんでしょうなσ(^_^;
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