「蛹(さなぎ)になる君へ」
君はもうすぐ蛹になろうとしている。
大人になる準備だね。
知っているかい?
蛹は硬い殻の中で、
主要な器官以外はどろどろに溶けるんだ。
棒つきアイスの棒だけ残すみたいにね。
そして、大人の体に再構築される。
それは苦しくてつらい期間かもしれない。
君は今、怖がっているかもしれない。
だけど、時間は止められないんだ。
身体の変化も止められない。
自分で自分の心臓を止められないのと同じだよ。
身体が先に大人になって、
心がついていかないのはもっと苦しいことになる。
だからね、今は準備期間。
心を大人に向けてみようよ。
君も憧れるだろう、
美しい羽で優雅に飛び回る蝶を。
花から花へ蜜を吸って、
なんて自由なんだろう。
大人になればたくさんのことを
自由に自分で決められる。
ただし失うものも、あるんだよ。
君は今、葉っぱと同じ色で守られて
むしゃむしゃ食べてぐっすり眠って。
気付いているかい?
それはとっても幸せなことだ。
蛹の時期はつらくても
硬い殻でしっかり守られている。
蝶はどうかな。
危険を冒してパートナーを探す旅をする。
羽と引き換えに、消化器官を失う。
もう、むしゃむしゃ食べられない。
蜜と水分しか吸い込めない。
どれがいいかなんて選べない。
だって時間は止められないんだったよね。
じゃあどうすればいいかって?
そのときの自分を精一杯生きればいい。
君はまだ、青虫だ。
無邪気に笑ってむしゃむしゃ食べて
緑に守られているその幸せを味わって。
蛹になったら蛹の自分としっかり向き合い
蝶になったら危険の先の幸せを
めいっぱい楽しめばいい。
このことを、ずっと覚えておいてね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
このストーリーは
性教育が始まって、戸惑っている
息子のために書きました。
絵はね、蝶の模様を
がっつり描いてみたかったんです。
蝶の模様も、
トンボやセミの羽もそうだし
葉っぱの葉脈もそう、
エネルギーの流れが
模様となって表れているんですね。
ため息が出るほどにスバラシイ。
昆虫を描いたのでファーブルさんに触れておきます。
ファーブル昆虫記の、ジャン=アンリ・ファーブルね。
ファーブルは、進化論で有名なダーウィンと
同時期に生きた方なんだそうですよ。
そしてダーウィンの自然選択説を真っ向から批判した。
私はちょっと感激しました。
小3のときにテレビでダーウィンの
進化論を知ったとき、衝撃を受けたんです。
先天性心疾患で生まれた私は、
手術が成功して普通に生きてますけどね、
時代が違えば生きられなかった、
私は自然選択説で言えば淘汰される劣性遺伝だ!ってね。
そのダーウィンが一番もてはやされたであろう時期に
観察することで気付けた命の本質を
ゆるがず主張し続けるのは至難の業だったろうに。
小3の私がファーブルのことも知っていたらなぁ。
ファーブルはただの虫好きというだけでなく
哲学的な考え方をするお方だったんですね。
「私はこの本(『ファーブル昆虫記』)を、本能とは何かという難問をいつの日か少しでも解いてみようとする学者や哲学者のために書いているのだ」
彼を称賛した言葉が琴線に触れました。
『哲学者のように考え、美術家のように見、
そして詩人のように感じかつ書く』
私もそうありたい。