デンセツの人
たぶん、某スーパーに勤めている方には想像が付くと思う
経済学に詳しい人から老後の2000万問題が語られた頃、夫が入退院を繰り返して
我が家にはその金額は絶望的に遠方の話だったので、
当時、既に震災以前の記憶が全く無い夫を置いて行くのは少し不安では有ったけど
自分なりにいろいろな場所に張り紙をして自制していたので取り敢えず収益を得ようと、近くのスーパーに早朝の清掃だけのアルバイトに出掛けたのだが
先輩に、二階の奥の部屋には伝説の人が居る、ということを教えられた。
何かあったら相談すると良いと。
店のことを何でも知っているデンセツの人。
頭の中でかつて働いていた出版社にいた、社長の次に古いあべさんを思い出した。
数年後、若干預金も出来たので、夫の通院のためにも小さなマンションを買って元の街に戻ろうと思案していたら、賃貸物件を打診していた不動産屋さんから、今日転居した家が有るから見に行こうと連絡があった。
表通りから数メーター奥まった敷地に建つ家の周りには野趣に溢れた草花が咲いていて、三つ並びの部屋は襖で仕切られていて欄間もある、雨戸は板が使われて、と、とても懐かしい感じのする家だったので即決し、今までの住まいと新しい契約に関する全てが終わり、転居の荷物を運んでいると、生け垣に真っ赤な薮椿が咲いていた。
薮椿のこの赤は日本独特の赤だという本を読んでから、薮椿の咲く道に意味もなく胸が踊った。
荷物を全て運び入れて、本の多さに反省をし、断捨離をするべく、心を鬼にして買取り業者宛の段ボール箱に詰めていき、ふと、本棚を見ると、デキゴトロジーという1980年代には出版された単行本が目に入った。
そしてその中に伝説の人の正解が書かれていた。
電設の人。配電設備をする人。
長い間解けなかった謎が解けたような気分になった。
そして夫が施設に入った後に残された手帳に
仕事がしたい
と繰り返して書かれているのも見つけた。
その文字を見て
昭和の頃
海援隊というグループの
ボーカルが歌う歌のなかの
台詞の、遊びたいとか、休みたいとか一度でも思ったら、その時はシネ、それが男ぞ、という言葉を思い出した。
今の時代、死ぬ程働けという言葉を発する親を見かけることはない。
男女雇用機会均等法で男性だけが働かなければならないわけでもない。
妻や子のために働くことを本分とした、夫達昭和の時代の人達こそ伝説の人なのかもしれない。