伊達政宗公の霊廟「瑞鳳殿」主催の政宗歴史塾特別企画講演を拝聴してきました。
(写真はぶらんどーむ一番丁の展示パネル)
第一部は東北民族の会 会長である佐藤敏悦さんによる伊達家の食文化について。
武人であり文化人である政宗公。
最近の大河ドラマの影響もあり,政宗公というとずんだもちやはらこ飯のイメージがありますが,実際に政宗公が食したという記録は無く,根拠に乏しいとのこと。
ずんだ餡自体はあっても,それを餅の上に乗せる文化はもっと後になってからだそうです。
史実の裏付けのある政宗公の好物は焼き鳥と鮭の鮨。
焼き鳥と言っても,現在のような櫛に刺したものとは違い,味噌で味付けしたもの。
鮨も「なれ鮨」という,魚・塩・米飯で乳酸発酵させた食品。
(写真は宮城県大崎市岩出山の旧有備館及び庭園で開催された企画展の伊達家正月膳サンプル)
政宗公と食といえば「芋の子汁」のエピソードもありますね。
こちらについてもお話がありました。
(過去ブログでも紹介させていただいております。https://ameblo.jp/sparrow-and-bamboo/entry-11519602590.html)
御膳と言われてイメージするのは脚のついた膳ですが,最高級の御膳は脚が付いていない白木の御膳。
一回きりの使い捨てだったそうです。
朝鮮出兵でも腐ることのなかった仙台味噌は,もともと岩出山(現在の宮城県大崎市岩出山)時代につくられたもので,仙台に移ってから城下にも広まり,一般的に食されるようになりました。
江戸大井町にも味噌工場をつくらせていた政宗公。
元々,味噌はミネラルやたんぱく質を多く含み,当時は今以上に生活必需品で,朝鮮出兵で好評を博した仙台味噌は江戸でブランド品として評価されました。
“食によるもてなしと名産品の贈答活用”で徳川家に対してもその存在を示した政宗公は,現代でも高いブランド力を持っています。
仙台市博物館に残っている仙台藩の料理書には,西洋料理の記述もあります。
サフランの代用として紅花を使ったパエリアが記録されているとのこと。
また,スペインの探検家であり海軍提督でもあるセバスティアン・ビスカイノの書いた記録によると,政宗公は「私たちの流儀による肉料理を運んでくるよう命じた」と記されています。
「当時は貴重だった塩や胡椒などを使い,ローストチキンなどを出したのでは」とのお話しでした。
びっくりするようなメニューも紹介されました。
「鶉の羽根盛り」です。
鶉の治部煮に頭と羽根を乗せた大名料理です。
ビジュアルはだいぶアレですが,羽ばたく姿が繁栄を表現するおめでたい料理だったとか。
第二部は伊達家十八代当主 伊達泰宗様によるご講演。
聴講者を信頼してこぼれ話もしていただきましたが,お立場を考慮して多少割愛しています。
講演の前に別なお仕事が入っていたそうで,お着物に袴,腰には懐刀を差していらっしゃいました。
講演は撮影禁止だったのですが,ちょうど伊達武将隊かわら版の特集でお召しになっている姿があったのでこちらを見ていただくとイメージが沸きやすいかと思います。
ちなみにこちらのかわら版,ウェブ版もありますのでぜひご覧ください。
(ここぞとばかりに宣伝)
https://datebusyou.jp/ebook/kawaraban_vol05/index.html
袴はおそらく仙台平(http://sendaihira.jp/)
所作も上品で素敵でした。
泰宗様からも政宗公の好物のご紹介がありました。
「焼き鳥と,赤貝の濃醤(こくしょう)」です。
濃醤(こくしょう)とは,仙台味噌を濃くといて食材を煮たもの。
第一部の佐藤さんもお話ししていましたが,伊達政宗公の食した料理を再現するのは大変難しいとのこと。
まず食材が手に入りにくい。
仙台味噌といっても,伊達家に伝わる仙台味噌は市販されているものより塩分が高め。
赤貝もその9割を輸入に頼っており,残り1割が宮城県名取市の閖上でとれますが,東京の築地へ直送されてしまうため入手は困難なのだそう。
「伊達家の正月膳と言えば"ハゼ出汁の雑煮"」という話を聞いたことがある方も多いと思いますが,実は誤解があります。
仙台藩城下では確かにハゼ出汁でしたが,政宗公が食していた雑煮の出汁はにしんやアワビを使っていたそうです。
また,現在「当時の雑煮を再現!」と銘打って提供しているものの中にはハゼがどーんと乗っているものがありますが,あくまで出汁として使うため,出汁殻であるハゼを乗せたりはしません。
甘露煮など,別な料理に活用していたそうです。
このように「定説になっていることでも違っていることに気づいて欲しい」とお話しされていました。
食材自体が入手困難どころか入手不可なものもあります。
天然記念物に指定され,禁鳥(保護鳥)となり捕獲も禁止されている鶴や,野生動物として原則捕獲禁止となっている白鳥などは鶏肉で代用するしかありません。
仙台藩の特産品であり,幕府や諸大名への贈答品としても使われたのが「鮭の子籠り」。
(写真は宮城県大崎市岩出山の旧有備館及び庭園で開催された企画展の伊達家正月膳サンプル)
鮭自体が特産品であるとともに,手間暇のかかる製法(完成まで15日を要する)のため,もてなしの品とされました。
子持ちの鮭を使用し,切腹を連想させるため腹は裂かず,エラから内臓を取り出し,代わりに塩を詰めます。
18リットルの水と8kgの塩で作った塩水に沈め数日おきます。
ほどよい頃合いで焼くのですが,そのまま焼くと卵に火が通りすぎるため,腹側を竹の葉で包んで保護します。
わざわざ焼き専門の料理人もいたそうです。
政宗公が食事をする際,日替わりで家臣も一緒に食事を取ったそうなのですが,その際も自ら選んだ料理を家臣と共に食べながら「そちの父上はこれが好物だった」と話し,家臣への思いやりを示したとのこと。
一緒に食事をするだけでも光栄なのに,あたたかな言葉をかけられたら「一生このお方に忠誠を誓おう」と思うでしょうね。羨ましい・・・。
現在でも観光をはじめ様々なところで政宗公のブランド力が活用されており,ご子孫,ご遺族としてはその扱われ方に複雑な思いを抱くこともあるそうですが,地域の発展に繋がるのであればと広い心で見守っていてくださいます。
ありがたいと思うとともに,敬意の念を忘れてはいけないと感じました。
伊達政宗公の霊廟「瑞鳳殿」主催の政宗歴史塾。
瑞鳳殿 http://www.zuihoden.com/
伊達政宗公生誕450年ということもあり,これまでより聴講可能人数を大幅に増やしての開催でしたが,あっという間に定員に達したそうです。
お二人ともブログには書ききれないくらい様々な興味深いお話をしてくださり,聴講できて本当に良かったと思います。
みなさんも機会がありましたらぜひ参加してみてください。
◆関連過去記事
伊達なお散歩~伊達家の正月膳~
https://ameblo.jp/sparrow-and-bamboo/entry-12235981455.html