「それはオレの食いモンだ。かえせ」
「食いたくなさそうなヤツに食われたら、牛肉が泣くぜ」
最後の牛肉をめぐって、荒っぽい連中の攻防が続く。
とっくの昔に、ムコウからの食料補給リストからは、肉が消えていた。
変だぞと気づくのが遅かったのだ。
補給リストから肉が消えていることに、やっと気づいた食料係りが、あわててわずかに倉庫に残っていた肉を配給制にしたが、すでに手遅れだった。
それでも、最初は一週間に一回は食べられた。それが、次第に間隔が延び、最近では、一カ月に一回、食べられるかどうかになってしまっていた。
そして、とうとう、今日が、ホンモノの肉の最後の配給だった。
これからは、あのいまいましい合成肉になってしまう。
それを考えると、最後に食べておきたいと思うのも仕方がないか。
オレは、皿が飛び交う小競り合いを眺めながらぼんやり考えていた。
「お前は、もうすぐ、ここに一年だな。帰るのか?」
テーブルの向こうから、室長がフォークをコッチに突きつけながらたずねた。
最近、基地のあちこちで交わされる話題だった。
三ヶ月ごとに、転属などの希望が聞かれ、所員の進路が決められるからだ。
「もう、ムコウじゃ二百年経ちますからね。今さら帰ってもしょうがないでしょ」
オレは投げやりに言った。
ココは、光速の九九、九九九パーセントで移動する非人類の宇宙遺跡だ。
九が五つ並ぶことから、「五クラス遺跡」と呼ばれる。
光速に近い速度で移動する物体は、めずらしくはない。
そして、光速に近い速度で飛んでいるものの中には、非人類の遺跡が多く発見されることが分かっていた。
そこには、非人類の高度な文明の遺産である遺跡を調べることにより、人類が飛躍させる可能性があるのだ。
世間知らずだったオレは、そう吹き込まれて、調査隊に加わった。
ココで一年も過ごせば、ウラシマ効果で、ムコウでは200年以上もたってしまう。
知り合いもみな死んでしまうし、そのうち、ムコウの文化も変わり、食事の習慣も変化する。
それが、時間の流れっていうもんだ。
補給船は物資の補給のため、定期的にココにワープしてくる。
その補給物資の中から肉類が途絶えてしまったことから考えると、どうやら、ムコウは、すっかりベジタリアンの世界になりかけているらしい。
「ムコウで肉を食わなくなると分かっていたら、ココに牧場を作るんでしたね」
オレは最後の一切れを念入りに味わいながら、室長に愚痴を言った。
「ココの三~四日があれば、ムコウじゃ牛がすっかり育っちまうからな。そういう計算からわざわざココで育てようという物好きはいなかったのさ。ムコウじゃ、肉を食べる人間はもはや原始人あつかいされているらしい」
室長は、合成肉で十分じゃないかと付け加えた。
「オレはいやですよ。合成肉なんて。ホンモノの肉が食べられるなら、たいていのことはがまんできるんですがね」
もう、ホンモノの肉が食べられないんだという思いからオレは抵抗した。
室長は、あごをなでながらしばらく考えて、言った。
「食べる方法がないわけでもない」
「じれったい言い方ですね。どうすればいいんですか?」
「何でもやるんだな?」
「死んだりするようなことでなけりゃ、やりますよ」
「死にはしないさ」
「じゃ、成立ですね」
オレは約束した。
ホンモノの肉をたらふく食べられるならな。
室長は切り出した。
「ちょうど、ある基地から増員の要請があったんだ。だれにしようかと迷っていたんだが、お前に決定だ」
「それとこれとどんな関係があるんです?」
オレは面食らって言った。
室長はニヤリと笑った。
「考えてみろ。増員の要請は、六クラスの基地からだぜ。ということは、ココからみて更に時間がゆっくり進んでいるってことだ。お前は、のろのろ時間の基地に行くのさ」
オレには、何かがわかったような気がした。
室長は続けた。
「さらに具合がいいことに、増員要請のあった基地が作られたのは、ココが作られる十年も前だ」
そうか。オレは室長の考えを引きついだ。
「つまり、ソコでは基地が作られ、まだ、ソコの時間では数週間しか経っていない。しかも、ソコは肉をたらふく食ってる時代に、冷凍庫を満タンにした。したがって、そこの冷凍庫には鶏肉だろうが、豚肉だろうが、牛肉だろうが、ゴマンと詰まっているというわけですね」
オレには、たっぷり肉の入った保冷庫がアリアリと想像できた。
「まあ、そういうことだ」
「しかし、ソコもいずれは肉がなくなる…」
室長は、そういうことだから頼んだよといいながら、アドバイスをくれた。
「そうなったら、七クラスの基地を見つけて、志願したまえ。そうしたら、また、食べられるよ」
(おわり)