先日もこのブログでご紹介いたしましたが,司法研修所編『子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究』が,令和6年8月に刊行されました。その内容が大きな話題になっています。

 

 

 

 

 

 

①「子の連れ去り」と②「面会交流拒否」は日本の大きな社会問題となっていますが,司法研修所が発行した書籍として,おそらく初めて,「①子を連れ去った親や②別居親と子との面会交流を制限した親は,子の監護者指定の評価において,消極的な評価を受ける」という内容を明示した内容となっています。具体的には以下の内容です。

 

 

 

 

 

 

 

同書面47頁以下「エ 他方の親と子の関係に対する姿勢の評価」

 

 

 


 

 

 

「第2で述べたように、一般的に、父母の別居・離婚後も、父母が子にとってかけがえのない親であることに変わりはなく、子が父母双方と関係を維持し愛情を受けられる状況を作ることは、家族関係の変化に伴う子の精神的負担を軽減し、子の利益にかなうと考えられ、第5で見たように、諸外国においても、この理念が制度及びその運用の両面で貫かれているといえる。

 

 

 

 

 

 

 

これを父母の養育行動の側面からいうと、父母には、父母間の紛争や感情的対立にかかわらず、子の利益を実現するため、互いに、他方の親と子の関係を尊重し、その維持に努めることが求められているといえ、子の利益の観点から父母の監護を評価するに当たっては、父母がそれぞれ他方の親と子の関係をどの程度尊重できているかについても評価すべきと考えられる。」
 

 

 

 

 

 

 

「具体的にみていくと、まず、同居親が、別居親と子の面会交流に積極的に応じるなどして、別居親と子の関係の維持に努めている場合は、同居親の姿勢は積極的な評価を受けることになろう。他方、同居親が正当な理由なく別居親と子の面会交流を拒否している場合や同居親が別居親についての悪印象を殊更植え付けるなどしている場合、反対に別居親が面会交流等の機会に同居親の悪口を言うなどしている場合には、その姿勢は消極的な評価を受けることになると考えられる。」
 

 

 

 

 

 

 

「次に、別居など単独監護の開始の経緯に関し、一方の親が他方の親に対して何ら説明なく無断で子を連れ出すなどして子の単独監護を開始した場合は、たとえそれが平穏な態様で行われても、子と他方の親を物理的かつ精神的に引き離す行為をしたとして、他方の親と子の関係に対する姿勢に関して、消極的な評価を受けることになると考えられる。」

 

 

 

 

 

 

実は,同書で注目すべき内容は,これだけではないのです。「保全の必要性」の問題について,「子が別居親から引き離されること」自体で,「保全の必要性」が肯定されるとの立場が記載されているのです。

 

 

 

 

 

 

今までの裁判実務では,「子との面会交流や監護者指定における「保全の必要性」とは,同居親が子に暴力を振るうなどの具体的な不利益が発生している場合である」との立場が通常だったように思います。そうではなく,子が同意なく別居親と引き離されてしまうこと自体で,「保全の必要性」が肯定されるという立場は,非常に斬新であり,まさに「チルドレン・ファースト」そのものだと思います。

 

 

 

 

 

 

同書の立場が,この後の裁判実務に大きな影響を与えることを心からお祈りして,同書の「保全の必要性」についての箇所を,以下で引用させていただきます。ご関心をお持ちの方は,ぜひお読みください。

 

 

 

 

 

 

司法研修所編『子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究』の75頁の「ウ 子と別居親との関わりの断絶・減少」には,以下の記載がされています。
 

 「別居により他方の親との関わりが減少することは,通常,父母双方との情緒的つながりを維持するという子の利益を損なうと考えられる。特に別居親が子との間でより安定した愛着関係を形成している場合や,父母双方が同程度に子との間で安定した愛着関係を形成している場合には,別居後の面会交流が断絶すると,子の利益に反する程度が大きくなり,保全の必要性を肯定する方向に働く事情となる。」
 

 

 

 

 

 

 

司法研修所編『子の監護・引渡しをめぐる紛争の審理及び判断に関する研究』の81頁には,以下の記載がされています。
 

「②単独監護開始の際に,子の利益を侵害する不適切な行為がされた場合には,四つのポイント(着眼点)のうち、監護態勢(特に子の利益に適切に配慮する姿勢)及び同居親の他方の親(別居親)と子との関係に対する姿勢に問題があり,そのような行動をとる同居親は子の利益に適切に配慮することを期待し難いことから,多くの場合同居親による監護が子の利益に反する状況にあるといえる。相対的に別居親の監護下に置くことが子の利益にかなうとともに,そのような子の利益に反する状況を速やかに解消すべきものとして,本案認容の蓋然性と保全の必要性が同時に肯定され得る。」