作花法律事務所の開設12年の中で,印象深く思っていますのは,憲法裁判として最高裁判所まで争った「無戸籍児問題」です。

 

 

 

 

 

 

明治時代(明治憲法時代)である1896年に制定された当時の民法では,生まれた子が法律上推定される父親の子ではないこと(父子であることを否認すること)を,父親にだけ権利として認め,子どもや母親には権利は認めていませんでした。

 

 

 

 

 

 

その結果,出生届を出すことで父親の子と推定される子について,出生届を出すことができず,その結果戸籍上記載されない子ども達が生まれることになったのです。

 

 

 

 

 

 

この問題を初めて知った時,私はその民法の規定は憲法が規定する法の下の平等(憲法14条1項,憲法24条2項)に違反していると考えました。父子関係の否認について,父親にだけ権利を与え,子どもや母親には権利を認めないことには,何ら合理的な理由はないと思ったからです。

 

 

 

 

 

 

日本の民法は,元々ドイツ法の民法を輸入したものです。そして,日本の民法を受け入れたのが韓国と台湾の民法です。

 

 

 

 

 

 

ところが,この「父子関係の否認権」について,ドイツの民法や,韓国と台湾の民法では,父親だけに権利を保障するのではなく,子どもや母親にも権利を与えています。

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ民法→日本民法→韓国及び台湾民法と3つの世代で考えますと,真ん中の世代である日本の民法だけが,権利保障の不平等な状態が続いていたことになります。「国際的な人権保障」の平等性の観点からも,不平等な状態が続いていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

私達が申し立てた憲法裁判では,残念ながら違憲判決は出ず,ただDV被害者の手続保障が法律上より充実されるべきだという判決理由で終わりました。

 

 

 

 

 

 

 

法改正を目指していたのに残念だと思っていたその時,読売新聞紙上で,当時の上川法務大臣が,この問題についての法改正を検討するとインタビューで述べられていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後,令和4年(2022年)12月10日に,子ども及び母親側からの否認権が民法上認められる改正が国会で成立しました。その施行が,ちょうどこの令和6年(2024年)4月から始まったのです。ちょうど作花法律事務所改正12周年の月に,1896年に制定された法律が変わり,新しい法律制度が創造され,動き始めたことになります。

 

 

 

 

 

 

 

私の目の前には,昨年発行された令和6年度の判例六法が置かれています。その判例六法には,子ども及び母親側からの否認権が新しく追記された新しい民法が掲載されているのです。

 

 

 

 

 

 

その判例六法を見る度に,いろいろなことがあった憲法裁判,その後の法改正までの日々を懐かしく思い出します。無戸籍児問題の解決のお手伝いができたことは,作花法律事務所にとっての何よりの思い出となっています。