以前にこのブログでもご紹介しましたが,関東弁護士連合会の委員会からお招きをいただき,「司法権の担い手に求められる「歴史家としての才能」と「預言者としての才能」」について,お話をさせていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

お話では,私がこれまで担当してきた憲法裁判をご紹介したのですが,話をしていて私自身とても印象に残ったのが,「女性の再婚禁止期間」の問題と,「離婚後単独親権」の問題なのです。

 

 

 

 

 

 

いずれも明治憲法時代である1896年に制定された制度です。その後「女性の再婚禁止期間」は,最高裁大法廷平成27年12月16日違憲判決を受けて,よく平成28年6月1日に国会で法改正が行われ,それまで6か月(180日)であった女性の再婚禁止期間が100日に短縮されました。

 

 

 

 

 

 

 

さらに,令和4年12月10日に国会で,女性の再婚禁止期間を全廃する法改正が行われ,来月の令和6年4月から施行される予定です。

 

 

 

 

 

 

 

元々「女性の再婚禁止期間」が設けられた大きな理由は,明治時代の医療技術や科学技術では,女性が出産された子が前の夫の子なのか,それとも後の夫の子なのかを判断することが難しかったことと,短い再婚禁止期間では,外観からは女性が妊娠しているかどうか分からないため,再婚禁止期間に幅を持たせた,という立法の経緯がありました。

 

 

 

 

 

 

そのようにして制定された「女性の再婚禁止期間」が,21世紀である令和4年12月10日に全廃されたのは、医療技術の発達と科学技術の発達により,女性が懐胎していることの判断が容易になったことと,父子関係の判断も容易になったことがあります。いわば,約130年の間の科学技術の発達が,「女性の再婚禁止期間」についての憲法上の評価を変化させたわけです。

 

 

 

 

 

 

そのように考えますと,同じ1896年に制定された「離婚後単独親権制度」への評価も,同様なのではないか,と考えたのです。1896年当時は,明治憲法下のいわゆる家制度があり,離婚後は父の単独親権であったものが,現行憲法の制定に伴い,離婚後の単独親権を父もしくは母にする法改正がされました。でも,「離婚後共同親権」にするという法改正はされなかったのです。

 

 

 

 

 

 

ところが,このブログで何度もお話しているとおり,離婚後単独親権制度は子の親権を巡り離婚する両親の間に激しい葛藤と紛争を生みます。子の連れ去りと面会の拒否が当然のように行われます。現在子を監護養育している親が離婚後単独親権者に指定されることが通常だからです。

 

 

 

 

 

 

 

その一方で,近時の科学技術と心理学研究の発達により,実は子どもは,両親ともに直接触れ合う機会が多ければ多いほど,脳に「オキシトシン」と呼ばれる「愛情ホルモン」が分泌されることが分かってきました。「オキシトシン」の分泌が多ければ多いほど,自己肯定感が高くなり,他者とのコミュニケーション能力も高くなることが分かってきました。

 

 

 

 

 

 

 

すると,上でお話したように,「離婚後単独親権制度」は離婚に際して子の親権を両親間で争わせ,両親間に高葛藤を生みます。その結果当然両親は不仲となり,別居親と子との面会もスムーズに進まなくなります。子の連れ去りや面会拒否が行われれば,子と別居親はほとんど会えなくなるのです。

 

 

 

 

 

 

 

さらに日本の裁判所の実務では,面会は月に1回数時間程度が大部分です。すると,「離婚後単独親権制度」とは,結果として,子ども達の脳に「オキシトシン」が分泌される機会を「どんどん少なくする」結果を生んでいるわけです。私は講演でお話をしながら,改めて「離婚後単独親権制度」は,子ども達の利益や福祉を害していることは明らかだ,と思いました。

 

 

 

 

 

 

 

「両親が離婚して別居しても,子ども達はそれまでと変わらずに両親と直接触れ合う機会をできるだけたくさんもってもらわなければ,「オキシトシン」分泌の機会が失われ,子ども達は自己肯定感が低くなり,他者とのコミュニケーション能力も低くなってしまう」という科学的事実が明らかになってきた歴史と,離婚後共同親権への法改正が進んできた歴史は重なるのです。世界中で,離婚後単独親権制度から,離婚後共同親権制度への法改正が進んできたことは当然のことだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ日本の国会にも「離婚後共同親権」法改正案が提出されると言われています。でもそのような日本の法改正の動きを見て,「日本はようやく20世紀に追いついた」と評価する外国の新聞記事もあります。

 

 

 

 

 

 

 

法改正を実現し,これまで離婚により親権を失った方の復権手続も設けて,「離婚後単独親権制度」により子ども達の心と成長に大きなマイナス面が与えられてしまったことを,できる限り社会として取り戻す姿勢が大切だと改めて思いました。1日も早い法改正の実現を心から祈っています。