本日(令和4年10月21日)付産経新聞の「正論」に,百地章氏(日本大学名誉教授)が「急げ「実子連れ去り」問題解決を」と題した論考を書かれています。以下で一部を引用させていただきます。

 

 

 

 

 

「不覚にも最近初めて知ったのだが,国内で親による「実子連れ去り」事件が多発しているという。

 

 

 

 

 

妻は一方的に夫のDV(家庭内暴力)を主張するが,夫には心当たりもない。

 

 

 

 

 

 

実子を連れ去られた夫が警察に相談しても「民事不介入」ということで警察は相手にせず,逆に夫が子供を連れ戻そうとすれば,警察によって阻止される。

 

 

 

 

 

やがて夫のもとに弁護士から離婚を求める訴状が届き法廷闘争が始まるが,子供に会いに行くと警察を呼ばれるため,夫は我慢して調停や裁判を続ける。

 

 

 

 

 

その間,面会交流を希望しても「子供が会いたがらない」等の一方的理由をつけて面会は拒否される。

 

 

 

 

 

こうして時がたつうちに家庭裁判所で「継続性の原則」(継続して子供と生活を続けた親の方に親権を与える方が子にとって環境変化がなく妥当という考え方)が適用され,夫はますます不利になる。

 

 

 

 

 

そこで仕方なく子供に会わせるという条件で離婚しても,約束は反故にされ子供には会えない。」

 

 

 

 

 

 

百地章氏は,このように書かれた後で,問題の解決策として,以下の提案をされています。

 

 

 

 

 

 

「解決の第一歩は,警察の介入と「支援措置」の見直しであろう。従来は「民事不介入」ということで,警察は実子誘拐に関与しなかった。

 

 

 

 

 

 

本年2月,警察庁から都道府県警本部宛てに「(連れ去り)被害の届け出等への適切な対応に遺漏なきを期する必要がある」との事務連絡が発せられた。また「正当な理由のない限り未成年者略取罪に当たり,それを現場に徹底する」旨の見解も示された。これが実行されれば,連れ去り問題はかなり解決できよう。因みに米国では実子誘拐は重罪である。

 

 

 

 

 

 

もう一つは「支援措置制度の見直し」である。現在は連れ去り親の意見だけ聴いて支援措置を決定するという安易なやり方がまかり通っていつが,本来は警察の立ち合いのもと双方の意見を聞いた上で事実認定を行い支援措置の是非を決定すべきだ。

 

 

 

 

 

 

もちろん当事者が深刻なDVを受けている時は,緊急手段として仮の支援措置を行う必要がある。しかしその際も追跡調査の上,正式決定を行うべきだ。

 

 

 

 

 

 

日本は各国から「拉致国会」の烙印を押されており,EU(欧州連合)は2020年7月,「実子誘拐禁止を日本政府に求める決議」を採択した。被害者である可哀そうな子供たちや別居親を速やかに救済するため,今こそ国は本気で解決に乗り出すべきだ。」

 

 

 

 

 

この「正論」において,百地章氏がおっしゃられている内容は,私自身が従前から感じていたことと基本的に重なる内容です。

 

 

 

 

 

同居している状態から,片親が子を連れて,他方配偶者に無断で子を連れ去っても,逮捕等されることはなく,また離婚訴訟における親権者の評価にも何ら影響がない一方で,連れ去った親から子を連れ戻すと逮捕されるのです。

 

 

 

 

 

本来であれば,離婚を考えて別居を希望している親の間で,離婚成立までの子の監護者をどうするのか,子の監護者になれなかった側と子の面会交流をどうするのかを,法律上の手続で決める必要があるのに対して,法律はそのような制度を設けず,いわば「連れ去った後」に調停制度が始まるのです。そして百地章氏も指摘されているとおり,裁判所は「継続性の原則」により,今子を養育している親の養育に問題がなければ,その親を親権者にしますので,「子を連れ去る」動機そのものを,現在の法律制度が与えているようなものです。

 

 

 

 

 

そのことは,子を連れ去られる親の権利を侵害するだけでなく,連れ去られる「子ども」の権利を侵害するものです。子どもは,両親の離婚について自らの意志や努力ではどうしようもない立場にあるにも拘わらず,今までの生活環境から連れ去られた上で,別居親と自由に会えなくなってしまうからです。

 

 

 

 

 

百地章氏も指摘されていますが,現在の「支援措置制度」が「子の連れ去り」発生の動機をさらに与えていると思います。「DV等の被害を受けた」という警察等で話をするだけで,現在は形式的に,新しい自分と子どもの住所地を,「加害者」とされた別居親には開示できなくすることができるのです。

 

 

 

 

 

この問題は,いわば現在の法律制度が,婚姻中の夫婦関係及び親子関係と,離婚後の夫婦関係及び親子関係のみ考慮して,やむを得ず離婚を考慮しはじめた夫婦関係及び親子関係という「家族」の全当事者が,どうすれば権利保護と手続保障を与えられるのかという「法律規定」がないから生じている事態だと思います。それはまさに,「立法の不存在」の問題です。本来は「立法の手当」が必要な場面に適応した立法がないことを利用して,離婚後に有利な立場を得る行動がされているということであり,それを規制する立法がないのです。

 

 

 

 

 

このような案件を多く担当して思うのは,この「立法の不存在」の最大の被害者は子ども達だということです。子ども達が両親と同じように触れ合いながら成長することが,その子ども達の精神状態に肯定的な効果を与えることは心理学者の調査でも実証されているところです。

 

 

 

 

 

1日も早く,そのような科学的根拠に基づいた「立法」が行われて,「立法の不存在」状態が解消されることを願ってやみません。私が現在担当させていただいている「子の連れ去り違憲訴訟」や「自由面会交流権訴訟」でも,その点を主張していきたいと考えています。