日本において,配偶者の一方が,他方配偶者の同意なく子を連れ去ることが違法とされていない問題について,アメリカで新法案の準備がされている,という報道を目にしました。「子の連れ去り」を違法とする立法を行わない日本に対して,厳しい措置を行う内容となっているそうです。

 

 

 

 

時事通信9月30日付配信の記事/子の連れ去りで新法案準備 日本に厳しい措置も

 

 

 

 

 

「【ワシントン時事】

 

 

 

 

 

国際結婚破綻時の子供連れ去りに関する公聴会が9月29日,米下院外交委人権小委員会で開かれた。

 

 

 

 

長年この問題に取り組むスミス共同委員長(共和党)は「日本は共同親権の概念を認識していない」と述べ,子供を取り戻すため日本に対し国務省が厳しい措置を取りやすくする新たな法案を準備していると明らかにした。

 

 

 

 

公聴会に出席した米国人の父親は,連邦政府が適切な措置を取らない国に制裁を科す法律があるにもかかわらず,国務省は依然として制裁に踏み切らないと批判。日本政府についても「恥知らずな共謀者だ」と糾弾した。」

 

 

 

 

 

ご紹介したアメリカだけでなく,近時はEUでも,日本において「子の連れ去り」を違法としない態度を強く批判した決議が採択されています。

 

 

 

 

 

諸外国において,親の子に対する権利は基本的人権であるとされています。また日本においても, 「親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け、又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」と判示されています(東京地裁令和3年2月17日判決)。

 

 

 

 

 

 

そのような「親と子との関係」は,いわば人が人として生まれたことで当然に有する権利であり,それは決して,国によって初めて与えられたものではなく,また憲法によって初めて与えられたものでもありません。それは前国家的性質を有する「自然権」であり,「基本的人権」なのです。

 

 

 

 

 

すると,「親と子との関係」が「国」という存在を超える性質を有する以上,外国では「子の連れ去り」が法律で禁止され,「親と子との関係」が法律で保障されているのに,日本では法律が制定されていないため,「親と子との関係」が保障されていないことは,背理であることは明白だと思います。日本が,児童の権利条約など,親子関係の維持を保障した国際人権条約を批准していることからしても,それは明白だと思います。

 

 

 

 

 

すると,冒頭でご紹介したアメリカにおける立法の動きは,まさに日本の社会における「法の欠缺」を是正し,日本の社会においても,諸外国と同様に,基本的人権を実現する目的を有するものと言えます。日本の社会において外国人が子を連れ去られる事案が多発していることを,「国際的関心事項」であり,もはや「日本における国内問題」とは言えない事態になっているとの立場の現れなのだと思います。

 

 

 

 

 

このアメリカの立法の動きは,「日本の子の連れ去りの問題」だけでなく,「日本の離婚後単独親権制度の問題」にも及ぼされるものです。「日本は共同親権の概念を認識していない」との発言は,それを裏付けるものです。

 

 

 

 

 

日本は世界の先進国なのですから,立法についても,世界の他の国々をリードしていってほしい,日本の立法が,世界中から,「そのような基本的人権の実現方法があるのだ」と驚かれるような内容であってほしい,と思います。

 

 

 

 

 

 

そのような願いを込めて,冒頭でご紹介したアメリカの立法の動きを,私が担当させていただいている「離婚後単独親権違憲訴訟」と「子の連れ去り違憲訴訟」において,日本国憲法に影響を与える立法事実としての外国法制定の動きとして引用することを考えています。以下でご紹介する最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲判決)は,外国における立法の動向が,日本国憲法の解釈に影響を与える存在であることを認めているからです。

 

 

 

 

 

最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲判決)

 

 


 

「また,かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する立法をする傾向にあり,ドイツにおいては1998年(平成10年)施行の「親子法改革法」により,フランスにおいては2005年(平成17年)施行の「離婚に関する2004年5月26日の法律」により,いずれも再婚禁止期間の制度を廃止するに至っており,世界的には再婚禁止期間を設けない国が多くなっていることも公知の事実である。それぞれの国において婚姻の解消や父子関係の確定等に係る制度が異なるものである以上,その一部である再婚禁止期間に係る諸外国の立法の動向は,我が国における再婚禁止期間の制度の評価に直ちに影響を及ぼすものとはいえないが,再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっていることを示す事情の一つとなり得るものである。」