5月3日の憲法記念日を前に,最高裁長官が記者会見で話をされた内容が大きく報道されています(令和3年5月3日付時事通信社配信の記事より)。

 

 

 

 

時事通信社/「新たな社会問題、広い視野で」=憲法記念日前に会見―大谷最高裁長官

 

 

 

 

 

「新たな社会問題、広い視野で」=憲法記念日前に会見―大谷最高裁長官

 

 

 

 

大谷直人最高裁長官は、3日の憲法記念日を前に最高裁で記者会見し、選択的夫婦別姓や同性婚を求める訴訟が増えていることに触れ、「裁判官は新たな社会問題に広い視野を持つべきだ」と述べた。

 

 

 

 

大谷長官は、価値観の多様化に伴い家族をめぐる複雑な事件が増加していると指摘。「裁判所への国民の期待が高まっている。対立する主張に耳を傾け、適切な判断が求められる」と話した。

 

 

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大に対し、裁判所はウェブ会議の積極活用や、裁判員裁判の選任手続きで広い部屋を使用するなど、運用上の工夫で業務を維持してきたと評価。「質の高い司法サービスを安定的に提供していけるよう、裁判所全体で取り組んでいく」と力を込めた。

 

 

 

 

法務省の検討会で議論されている刑事司法のIT化については「現在の裁判運用に改善すべき点はないか見直しつつ、スピード感を持って進めていく」とした。

 

 

 

 

(記事はここまでです)

 

 

 

 

最高裁長官は,夫婦別姓訴訟と同性婚訴訟を例に挙げて,「裁判官は新たな社会問題に広い視野を持つべきだ」,「価値観の多様化に伴い家族をめぐる複雑な事件が増加している。」「裁判所への国民の期待が高まっている。対立する主張に耳を傾け、適切な判断が求められる」などと話されています。これは,現在夫婦別姓訴訟(戸籍法上の夫婦別姓訴訟)と同性婚訴訟(戸籍法に基づく同性婚の婚姻届受理申立事件)の両方を担当している私としては,とても嬉しくなったお話でした。

 

 

 

 

日本では,なかなか国会での立法や法改正が進まない現実があります。外国だとすぐに法改正がされている問題でも,世界中で日本だけ立法がされていない問題(選択的夫婦別姓や離婚後共同親権)や,先進国,特にG7の中では日本だけ立法がされていない問題(同性婚)があります。

 

 

 

 

そのような国会における現実を踏まえると,司法権による違憲立法審査権の行使が積極的に求められることは当然だと思います。いずれの問題も,多数派の考えを少数派に義務付けてよいのか,という問題であり,憲法が裁判所に違憲立法審査権を付与したのは,多数決では奪うことができないものがある,それが基本的人権であり,それを守るのが憲法である,という趣旨だからです。

 

 

 

 

ちなみに,最高裁長官が「価値観の多様化」と述べられた点も,私には嬉しいお話でした。私が担当している事件(例えば戸籍法上の夫婦別姓訴訟)は,今までに試みられなかった「戸籍法」に着目した,異なる色彩を憲法に与えようとする訴訟だからです。虹が7色だからこそ美しいように,司法権と憲法に与えられる色彩が多様であれば多様なほど美しい色が醸成される。それが違憲立法審査権なのだと思っています。

 

 

 

 

さらに申すと,最高裁長官はお話で例として挙げられていませんが,私が担当させていただいている離婚後単独親権制度違憲訴訟は,現在東京高裁に係属しており,7月に審理期日が予定されています。おそらく来年の5月3日の憲法記念日の頃には,その離婚後単独親権制度違憲訴訟も最高裁に上告されていて,最高裁長官のお話として,東京地裁令和3年2月17日判決が判示した,以下の「親による子の養育は,親にとっても,子にとっても,決して失われてはならない人格的な利益である」との内容についても言及していただけると嬉しいな,と思っています。そのような時が来るように,精一杯の訴訟活動を行いたいと考えています。

 

 

 

 

 

東京地裁令和3年2月17日判決

 

 

 

 

「親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け、又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」