私が担当させていただいている離婚後単独親権違憲訴訟について,東京地裁令和3年2月17日判決が出されました。判決文は,以下の訴訟HPに掲載されていますので,ご覧ください。

 

 

 

 

離婚後単独親権違憲訴訟HP

 

 

 

 

 

 

東京地裁令和3年2月17日判決で,私がとても興味深く拝見したのは,2点あります。その1つは,「親が子を養育することは,親にとっても子にとっても人格的利益であり,それは親の離婚によっても妨げられてはならない。」と判示されていた点です。

 

 

 

 

東京地裁令和3年2月17日判決

「親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け、又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であるであることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」

 

 

 

 

これまでの裁判所の面会交流の実務では,えてして「面会交流は子の権利であり,親の権利ではない」という認識に立った運用がされてきたように感じています。それに対して東京地裁令和3年2月17日判決では,「親が子を養育することは,親にとっても人格的利益である」と明言したわけです。これは,現在最高裁に係属している自由面会交流権訴訟や,私が担当させていただいている東京地裁に係属している自由面会交流権訴訟,さらには現在東京地裁に係属している他の離婚後共同親権や離婚後共同養育を争われている訴訟にとって,とても有利な判示がされたと思っています。

 

 

 

 

さらには,このこの東京地裁令和3年2月17日判決の判示は,近時指摘されている心理学者による研究結果としての,「親が別居した後,子が別居親と面会交流を行っている回数が多ければ多いほど,子は自己肯定感が高く,また他者とのコミュニケーション能力も高い。」という結果を踏まえた子の養育のあり方をも指向するものです(野口康彦外「離婚後の面会交流のあり方と子どもの心理的健康に関する質問紙とPACK分析による研究」)。

 

 

 

 

 

また,東京地裁令和3年2月17日判決が,あえて「親が子を養育することは,親にとっても子にとっても人格的利益である。」と判示したことは,原告に対するプレゼントだったように思います。なぜならば,夫婦別姓訴訟の最高裁大法廷平成27年12月16日判決は,基本的人権でない権利でも,それが人格的利益であれば,憲法24条2項の個人の尊厳と両性の本質的平等の問題が生じると判示しているからです。東京地裁令和3年2月17日判決が「人格的利益」とあえて表現してくださったのは,高裁での控訴審や最高裁での上告審において,原告側がその主張ができるようにとの配慮のように感じています。

 

 

 

 

 

では,東京地裁令和3年2月17日判決が離婚後単独親権制度を合憲とした理由は何か,がポイントとなります。この点も私はとても興味深く感じています。東京地裁令和3年2月17日判決は,上でお話したように,親が子を養育することは親にとっても子にとっても人格的利益であり,親の離婚によってもそれは妨げられてはならない,と判示した上で,離婚後に,いわば関係が悪化している両親が共同で子の親権を行使するとした場合,意見の対立によって子の福祉が害される可能性がある,という立場を明らかにしたのです。これは,「離婚後も共同養育が原則であり,離婚後単独親権制度は,子の福祉が害されないための例外的な規定である」との裁判所の立場が初めて明確にされた内容です。さらに東京地裁令和3年2月17日判決は,離婚後共同親権制度にも合理的な理由があるが,現在すでに家族法研究会などで法改正が検討されているなどの事情からすると,その制度を採用しない国会の立法不作為が国家賠償法上違法とはいえない,と判示したのでした。

 

 

 

 

ただ,では離婚後単独親権は本当に合憲なのかは,今後東京高裁での控訴審や最高裁での上告審で争われることになります。特にポイントとなるのは,ドイツとルクセンブルクで離婚後単独親権制度を違憲とする判決が出されていることです。基本的人権は,人が人として生まれたことで当然に有する権利であり,国が与えたものでも,憲法が与えたものでもありません。それは人であることで当然に有する権利なのです。基本的人権とは,国境を越えた普遍的な性質を有する自然権です。

 

 

 

 

すると,ドイツとルクセンブルクで違憲とされた制度が,日本では合憲とされてよいのか,それは基本的人権の普遍的な自然権的な性質に反しないか,国際交流が進み国際結婚も増えている現在の国際化社会において,日本だけその制度を合憲としてよいのかは,今後の訴訟で改めて問われることになる予定です。

 

 

 

 

訴訟はすでに控訴を行っています。これからいよいよ,東京高裁での控訴審が始まります。ただ,東京地裁令和3年2月17日判決が私達に下さった「親が子を養育することは,親にとっても子にとっても人格的利益であり,それは親の離婚によって妨げられてはならないのだ」という大きなメッセージは,きっと今後の裁判実務等に大きな影響を与えることだと思っています。