お盆休みも終わり,という方が多いのでしょう。皆さん,良いお盆を過ごされましたでしょうか。

 

 

 

柳田国男が『遠野物語』を発表して1世紀が経ちます。岩手県遠野に伝わるカッパや幽霊の伝説をまとめたその作品を引き継ぎ,現代の東北の伝説を集められている文芸評論家の東雅夫さんによりますと,東日本大震災の被災地では,とても不思議な話が生まれている,ということです(2013年8月8日付朝日新聞大阪版掲載の記事より)。

 

 

 

東さんは,ご自身が聞かれた不思議な話として,次の物語を紹介されています。

 

 

 

「仮設住宅ではお年寄りを中心に集まって,よく『お茶っこ』をされますね。茶飲み話に花を咲かせ,じゃあねと解散した後,ふと気がつく。

 

 

 

『そういえば,あのお婆ちゃんは津波にさらわれたんじゃなかったっけ』って。

 

 

 

でも皆さんは怖がったりしません。あの婆ちゃんは物忘れが激しかったから,自分がさらわれたことも忘れたんだべ。人なつっこい婆ちゃんだったからな,っていう感じなんですよ」

 

 

 

その東さんはさらに,お盆に行われる盆踊りについて,とても興味深い話をされているのです。

 

 

 

「盆踊りは本来,手ぬぐいなんかで顔を隠して踊るもの。誰だかわからなくするのです。

 

 

 

そうやって楽しく踊る輪なら,あの世からご先祖様が紛れ込んでもわからない。一緒に踊り,供養されて帰っていく。」

 

 

 

お盆とご先祖様といいますと,私は小さい頃に読んだ少し怖いお話で,未だに忘れられないものがあります。

 

 

 

ある芸能人の方が幼い頃に体験したお話です。その幼かった芸能人の方は,毎年お盆に親戚中で本家に集まっていたのだそうです。

 

 

 

そしてその地方では,伝統的にお盆になると,家から1名の者が代表して,夜にご先祖様のお墓に行き,お墓の前で背中を向けて「おばあさん,(背中に)お乗りなさい」と言って,あたかもご先祖様の霊を,お盆で親戚中が集まっている本家まで背中に乗せて連れて帰るようにする,という行事を行っていたのだそうです。

 

 

 

ある年,たまたまその芸能人の方がそのご先祖様のお墓まで夜行って,ご先祖様の霊を連れて帰るようにする,その行事の役割に当てられてしまったそうです。まだ幼かったその芸能人の方は,とても怖かったので,仕方なく夜1人で墓の近くまでは行ったものの,墓の前まではとても行くことができず,途中で引き返したのだそうです。

 

 

 

でも本家でそのことを言えず,きちんとおばあさんの霊を本家で背中から下した,という動作は行い,あたかも自分は役割を果たした,ということにして,その後は素知らぬ顔をして,お盆を楽しんでいたのだそうです。

 

 

 

すると,親戚が集まったそのお盆のお祝いの最中に,本家の奥様が一言ぽつんと「おかしいわね。今年はおばあさん,帰って来てないみたいね。」と言ったのだそうです。

 

 

 

私たちのご先祖様は,懸命にその人生を生き,さまざまな思いを残してこの世を去って行かれました。

 

 

 

お盆とは,そのご先祖様の,残された人々への思いと,今を生きる私たちのご先祖様への思いが交錯する時なのでしょう。

 

 

 

人を敬い,人を心配し,人を思う気持ちそのものは,決して目には見えないものです。でもその目には見えない大切な気持ちは,私たちの家族と社会そのものを支えている存在です。


 

 

お盆は,実際にご先祖様が生きていた時には,お互いになかなか口にして伝えられなかったそんな思いを,時空を超えて伝え合おうとする貴重なひと時なのかもしれません。そしてお盆に,時々不思議な出来事が起きるのも,その思いが交錯し,共鳴した結果なのかもしれませんね。