フランスの大統領選挙は,4月23日の第1回投票の結果,中道派であるマクロン前経済相とルベン国民戦線党首が,5月7日の決戦投票に進むことになりました。

 

 

 

親EU派であるマクロン氏が選ばれるのか,それとも反EU派であるルベン氏が選ばれるのか。反EU派が勝利したイギリス,親EU派が勝利したオランダに続く選挙であり,その結末はフランスだけでなく,EUの将来を揺るがすことになります。

 

 

 

私は以前,仕事を終えた後で,フランスのアヌシーという街に参ったことがあります。スイスのジュネーブからバスで国境を越えつつ約2時間の距離にある,アヌシー湖という美しい湖がある街です。アヌシーの街は,中世の街並みと,湖から街に流れ込む運河が解け合う,とても幻想的なものでした。

 

 

 

 

 

 

それまで,フランスといえばパリしか行ったことがなかった私は,アヌシーの街を散策することで,多くのフランス人が「フランスの素晴らしさは,国の多様性にある」と言われていたことを,初めて理解できたような気がしました。

 

 

 

パリはパリ。アヌシーはアヌシー。ボルドーはボルドー。それぞれの地域にそれぞれの色があり,それがフランスという1つの国を構成している。それはあたかも,フランス国旗の美しい色彩の集まりのように思います。

 

 

 

さらに申すと,国際社会の共通語と言えば英語ですが,実は国際条約では,英語ではなくフランス語で文書が作られることが多いことをご存じでしょうか?。あえて英語ではなくフランス語で文書を作る理由は何か,と申しますと,フランス語の動詞にあります。フランス語は,どんな言葉よりも動詞が多様な表現ができるのです。

 

 

 

ですので国際社会では,互いに異なる文化を持つ国と国が合意をする際に,言葉の上での誤解がないように,あえて多様な表現ができるフランス語を使うことが多いのです。それはあたかも,多様な色を持つフランスという国を結び付ける言葉の役割そのもののように感じます。

 

 

 

フランスは,申すまでもなくドイツとともにEUの中心を担う存在です。EUという人類の試みがどの方向に向かうのか,決して正解のない世界で,それでも人類が理想を託す存在として登場したEUです。私達の世代でその理念が壊れてほしくない,と思います。

 

 

 

EUの歌に指定されているベートーベンの「交響曲第9番」(合唱)は,ヨーロッパの激動期である19世紀に作られました。ベートーベンが「おお友よ。このような音ではない。我々はもっと心地よい,もっと歓喜に満ち溢れる歌を歌おうではないか」と,歌に託した理念に,新しい時代の新しい意味が重なる,5月7日の決戦投票の結果が出されることを祈っています。