先日もご紹介いたしましたが,私が担当させていただく予定の,嫡出否認制度が憲法に違反しているのではないかを問う憲法裁判を,6月20日付の朝日新聞と朝日デジタルで紹介していただきました。また,外の多くのマスコミの方々にも紹介していただきました。


それらの記事を読まれた多くの方から励ましやご助言をいただいたのですが,その中でとても興味深いご意見に触れることができました。大要,以下のようなご意見です。


「無戸籍児問題は,親子関係不存在確認調停や訴訟においても,DV被害者の妻としては,DV加害者の夫に調停や裁判で接触すること自体を恐怖に思うので,嫡出否認の訴えが妻側からできるようになった場合でも,その恐怖の問題をさらに変える工夫が必要なのではないか。」


私の考えをお話しますと,無戸籍児が生じている原因には,①法制度上の問題と②事実上の問題(心理面での問題)の2点があると思います。


そして,①法制度上の問題としては,やはり生まれた子と夫との間に嫡出推定が及ぶ場合は,夫から嫡出否認の訴えをしない限り,妻や子は夫との嫡出性を否定(否認)できないことが,最大の問題だと思います。


それに対して,上の貴重なご意見をいただいた方のご指摘は,むしろ②の事実上の問題(心理面での問題)だと思います。


現在の法制度上では,妻や子側から夫と子の親子関係を否定するためには,親子関係不存在確認の調停や訴訟を提起しなければなりません。


そして,そのような手続では,必ず担当裁判官から,「夫の話を聞かなければいけない」という話が出て,DVの被害者である妻が夫との接触を持ちたくないために,訴えを続けることができなくなる,という問題があるのです。


でも,私が思いますのは,この場合に妻が訴えを続けることができなくなるのは,夫への恐怖心というよりも,むしろ夫が裁判所に来て,「この子は自分の嫡出推定が及ぶ子だ」という主張や話がされた場合,もはや裁判所は,審理を続けることが難しくなる,という点がより問題だと思います。なぜならば,上で申しましたように,親子関係不存在確認の調停や訴訟は,あくまでも夫と子との嫡出推定が及ばない場合にのみ認められる手続だからです。それはよほどのことが内限り,認められないものです。


とすると,夫ではない男性の子を出産した妻としては,仮にその子が生まれたことを夫に知られてしまえば,夫に自分が子を産んだこと自体が知られてしまい,夫が妻との離婚を拒否しているような場合には,夫があえて子との嫡出性を否定(否認)しない可能性が生じるのです。


これが
②事実上の問題(心理面での問題)が生まれる理由なのですが,私の考えでは,これも①
法制度上の問題が存在しているがために生まれる問題のように考えています。


①法制度上の問題,つまり父と子との嫡出推定が及ぶ場合には,父のみが子との嫡出性を否定(否認)できるのではなく,妻や子からもそれを否定(否認)できるのであれば,仮にDV被害者である妻であっても,弁護士に依頼して,DV保護命令を裁判所に出してもらい,後は弁護士が代理人として,父(夫)に対する嫡出否認の訴えを起こすだけで,子が無戸籍になることはなくなるのではないでしょうか。


日本の民法の母法はドイツ法であり,ドイツ法では既に1960年代に子からの嫡出否認の訴えが認められています。さらに日本の民法と同様の規定を設けていた韓国でも,21世紀に入り,妻からの嫡出否認の訴えを認めないことが憲法違反であるとの憲法裁判所の判決を受けて,現在では妻から夫に対する嫡出否認の訴えが認められているのです。


それらの外国法の変遷は,日本国憲法における「平等」の解釈に大きな影響を与える存在だと思います。また正式に提訴となる際には,このブログでもご報告させていただく予定です。よろしくお願いいたします。