ノーマン・ロックウェルさんの絵は1916年から1963年にかけて描き続けた『サタデー・イーブニング・ポスト』紙の表紙が著名です。庶民の哀歓や暖かな人間関係や人生の哀歓を描いた画家として,アメリカ人だけでなく,世界中の人々の心を捉えている方です。
私もノーマン・ロックウェルさんの大ファンなのですが,特に次の2枚の絵が好きです。世界中の人々が共有している,子供時代の素朴な心が描かれているように感じるからです。
ノーマン・ロックウェルさんといえば,上でご紹介した心温まるい作品が多い一方で,晩年に描かれた代表作「The Problem We All Live With」 では,人種差別的な悪戯書きがなされトマトが投げつけられた壁の前を,連邦保安官に守られながら通学する幼い黒人少女の姿(公民権運動の一環として,白人の学校に通おうとする場面)を描いています。社会性の強いテーマに対する,ノーマン・ロックウェルさんによる問題提起でありました。
さらにノーマン・ロックウェルさんは,陪審制度をテーマにした作品も描かれているのです。次の作品です。
実はこの陪審裁判を描いた作品の中には,ノーマン・ロックウェルさんご自身が描かれている,と言われています。一番左側で立っている男性です。
市民の皆が,喜びと悲しみに満ちた人生を送っている。その市民の思いが結実したものが,社会を支えている。ユーモラスな作品も,公民権運動についての作品も,ノーマン・ロックウェルさんが描きたかった人々の心そのものであるという意味では同じなのかもしれません。
ノーマン・ロックウェルさんが残された作品は,彼が人生の晩年を過ごされたマサチューセッツ州のストックブリッジに建設された「ノーマン・ロックウェル美術館」に収容されています。
現在でも多くの人々が同美術館に訪れるのは,日々の喧騒の中で,時々ノーマン・ロックウェルさんが描かれた作品に込められた,素朴で純粋な思いを大切にしてほしい,というメッセージに触れたくなる時があるからかもしれません。