2010年と2011年のプロ野球で一番の驚きを与えたのは,セリーグのヤクルト・スワローズの監督となられた小川淳司監督ではないでしょうか。



小川監督は,2010年5月27日に,高田繁前監督の後を受け,監督代行に就任されました。この小川監督の就任を機に,チームは急上昇します。最終的にクライマックスシリーズへの出場争いを演じるにいたります。最終的にクライマックスシリーズ・ファイナルステージでヤクルトは中日に破れ,日本シリーズ出場を逃しはしたものの,大健闘を見せたのでした。



さらに小川監督は,2011年に正式に監督に就任した後も,その采配が冴え渡りました。最終的には後半戦で息切れして,ペナントレースを2位で終えたものの,一時は後に首位となる中日に10ゲームの差をつけて独走していたのでした。



これらヤクルト・スワローズの大躍進は,小川監督の名采配に導かれたものであることは誰も争わないことではないでしょうか。







その小川監督の監督としての采配の特徴は,「リーダーシップ」ではなく「フォロワーシップ」にあると言われています(児玉光雄『小川淳司監督はヤクルトに何をしたのか 奉仕するリーダーシップ』(二見書房))。



「リーダーシップ」がリーダーが強く指示を行ういわゆるトップダウン方式であるのに対して,「フォロワーシップ」とは,チームの主役を選手に置き,リーダーはあくまでも脇役として動く概念です。



そこにおいてチームの主役を選手に置く,とは,選手の個性や長所を最大限伸ばし,かつ選手と選手との関係を重視し,チームの総合的な力を上げていくことを意味しています(ロバート・ケリー『指導力革命 リーダーシップからフォロワーシップへ』(プレジデント社))。



リーダーの力で勝つのではなく,チーム力,組織力で勝ろうとする立場である,と言えるかもしれませんね。上掲の児玉光雄『小川淳司監督はヤクルトに何をしたのか 奉仕するリーダーシップ』でも,「これからの競争社会では,常にリーダーが主役の先生型ではなく,メンバーが主役の民主型リーダーのチームが勝利を収めるようになる」(同書122頁)との指摘がされています。






このように,小川監督の采配はフォロワーシップとしての特徴を有しており,ヤクルト・スワローズはそのフォロワーシップにより大躍進を遂げた,と評価されているのですが,実は小川監督がフォロワーシップ采配を取られたことには,あるきっかけがあったのだそうです。



それは実は,小川監督の父親に関係があることでした。実は小川監督の父親は,保護司をされていたのです。



保護司とは,犯罪者の更生に尽力し,社会復帰を助ける仕事です。「保護観察」という言葉がありますが,これは犯罪を犯した人をすぐに実刑として刑務所に行かせるのではなく,保護司のところに通いながら社会生活を送ることで更生を図らせようという制度です。ある意味で,社会の先生,師としての役割を果たしてくださる方々ですね。



その保護司をされていた父親から小川監督は,よく「犯罪者は出会いの失敗なんだよ」と言われていたそうです。



元々犯罪者もほとんどの場合,自発的に犯罪に手を染めることは稀で,人との出会いが間違っていたからそうなったのだ,というのが小川監督の父親の考えだったそうです。



そのような教えを小さい頃から伝えられてきた小川監督の心の中には,「選手にとって,私が出会いの失敗になってはならない」という思いが常にあるそうなのです。それがフォロワーシップとしての采配として現れているのでしょう。







「犯罪者は出会いの失敗なんだよ」という小川監督の父親の言葉は,弁護士として刑事事件に関わってきた私も,大きく頷いてしまうものです。



「人と人の出会いの大切さ」を野球の采配として生かされている小川監督とヤクルト・スワローズ。今年のプロ野球でも注目ですね。