以前NHKで,嘘を見破る方法,という番組が放送されていました。


その番組では,家族との約束を破り,飲み屋などで遊んでいたことを隠し,色々と言い訳をしている夫を,妻がいかに追いつめるか,という場面がありました。


妻はまず,夫のスーツのポケットに入っていた色々な店のレシートを取り出し,夫を問いつめようとします。でも夫は,そのレシートに書かれた1つ1つを指さして,「これは○○な理由から,仕方なかったんだ。遊んでいたわけではない。」という言い訳をします。これが失敗例でした。


では,上手な問い詰め方,嘘の見破り方はどうすればいいのか,と申しますと,番組では,まずレシートは出さずに,最初に夫にその日のことを説明させる,その後,客観的な証拠であるレシートをおもむろに取り出して,レシートの内容と言い分とが違うではないか,という方法が望ましい,とされていました。


つまり,客観的な証拠はむしろ最初は隠しておいて,言い分を聞いた後で,その言い分がおかしいではないかという証拠として,レシートなどの客観的な証拠を用いるべきである,ということですね。それは実は裁判の反対尋問の秘訣でもあるのです。





アメリカ第16代大統領のエイブラハム・リンカーンは,大統領になる前は弁護士をしていました。実はリンカーンが弁護士だった当時行ったという反対尋問が,今でも伝えられているのです。「ムーンライト・クエスチョン」と言います(日本弁護士連合会編『法廷弁護技術[第2版]』(日本評論社,2009年)184頁以下)。


リンカーンが弁護人となったのは,殺人事件でした。検察側証人は,被告人が殺人行為を行った一部始終を目撃した,と証言しました。それに対するリンカーンは,以下のような反対尋問を行ったのです。


問:夜の11時に,明かりもなく,150フィート以上も離れていたのに,どうやって見ることができたんですか。


答:月が煌々と輝いていました。


問:満月ですか。


答:そう,満月でした。


このとき,リンカーンは上着のポケットから青い表紙の暦を取り出し,問題の夜の月齢表のあるページをゆっくりと開き,証人の前に置きました。そして反対尋問を続けました。


問:この暦によれば,8月29日の夜の月齢は満月ではなく,4分の1を越えたばかりですね。


答:(返答なし)


問:また,この暦によれば,午後11時までには月は消えているはずですね。


答:(返答なし)


問:その時は暗くて150フィートといわず,50フィートも離れれば何も見えなかったのではありませんか。


答:(返答なし)





リンカーンはまさに,先に言い分を言わせて,後から客観的な証拠を示すことで,反対尋問を成功させたわけですね。


有効な反対尋問の技術を,歴史上の人物であるリンカーンから学ぶことができるなんて,とても光栄なことだと思います。社会は1日1日変化するのですが,逆に言うと1日1日の積み重ねの上に,今日はあるわけです。私も,歴史から学び,社会から学び,良い法律家になっていきたいと考えています。