令和6年5月17日に成立した「離婚後共同親権」改正民法について,自分自身で条文を読み,さらにはいろいろな会にお招きいただいてお話を伺ったことなどを踏まえて,今私が思っている「改正民法についての解釈論」を数回に分けて書きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

今回の改正民法で今後実務に大きな影響を与えるのではないかと感じている条文は,以下の[第817条の12]の2項です。

 

 

 

 

 

 

 

 [第817条の12]の2項

 

 

2 父母は,婚姻関係の有無にかかわらず,子に関する権利の行使又は義務の履行に関し,その子の利益のため,互いに人格を尊重し協力しなければならない。
 
 

 

 

 

 

 

 

この条文は,いわゆる「フレンドリー・ペアレント・ルール」が明文化されたものです。諸外国では,両親の内,他方親と子との関係に友好的な親が,親権者決定において高く評価される「フレンドリー・ペアレント・ルール」の条項が設けられていることが多いのですが,日本でも改正民法において,その「ルール」が取り入れられたことになります。

 

 

 

 

 

 

 

この「フレンドリー・ペアレント・ルール」は,単なる解釈指針であるだけでなく,以下のような効果を生むことが予定されています。

 

 

 

 

 

 

 

[2024年4月2日衆議院法務委員会答弁]


小泉龍司 ○小泉国務大臣「あくまで一般論でございますけれども、父母の一方が父母相互の人格尊重義務や協力義務等に違反した場合、親権者の指定、変更の審判や親権喪失、親権停止の審判等において、その違反の内容が考慮される可能性があると考えられます。」

 

 

 

 

 

 

 

これまで日本の実務では,離婚後単独親権制度の下で子の親権者になることを希望する親により,子の連れ去りが行われ,監護時間で優位に立つために面会拒否も行われる姿をよく目にします。「子どもに会いたいなら離婚しろ。離婚しないなら子どもに会わせない。」という発言もよく聞きます。

 

 

 

 

 

 

 

改正民法においては,そのような「他方親と子との関係を制限したり,他方親の人格を尊重しない行為」は,逆にその行為を行った親が,親権者として不適格である,という法的評価を生むことになります。これは,今後の実務に大きな影響を与えると私は考えています。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに,この「フレンドリー・ペアレント・ルール」は,予定されている2026年の改正民法施行前においても,特に「離婚前共同親権」状態において,主張の根拠となる,と私は考えています。といいますと,改正民法は,これまで民法の規定では不明確であった親権の規定を明確化して,その内容を離婚後共同親権の場合に拡張したものだからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に解釈指針は,法が施行されれば100%現れて,法が施行される前には0%になるという存在ではありません。解釈指針は,国民の心の中の正義と公平の感覚に支えられ,正義と公平の感覚が生んだ存在です。改正民法は,これまで民法の規定では不明確であった親権の規定を明確化して,その内容を離婚後共同親権の場合に拡張したものなのですから,そこに現れた「正義と公平」の感覚は,現在施行されている「離婚前共同親権」についても適用される存在だと,私は考えています。