『前世療法』のブライアン・ワイス博士、三冊目の著作。
魂の伴侶こと、ソウルメイトとの再会、をメインに取り上げた物語。
エリザベスとペドロの、時を超えた感動の再会、そこまでの道のり、退行催眠の軌跡を描出した著作ですね。
これは発刊された時にすぐに読んだ気がするので、90年代に読んだ本ですが、ワイス博士の他の著作と同じく、なんとも言えない清明な、澄んだ心と言葉でもって書かれた作品、という印象ですね。
ワイス博士の本はどれもみな、同じような、言葉も思いも澄み切ったような、そうした爽やかさというか、清らかな波動を感じますね。これはワイス博士の心の状態が、文章にそのまま反映されているのでしょう。
本作の主人公は、エリザベスという女性と、ペドロという男性。
二人とも今世はまったく面識がない、生きて来た環境もまったく違うような、そうした二人なわけですが、
不思議なことに、同時期にワイス博士のところへ、退行催眠療法を受けにくるわけです。
面白いのは、エリザベスもペドロも、診療日が違うために、会うことすらなかったのに、
ワイス博士だけが、二人の退行催眠の内容を聴いているうちに、ひょっとしてこの二人は、前世からの知り合いなのではないか、と気づくわけです。当の二人はまだ会ってもいないうちにです。
この背後ではたらいていたのは、二人の守護霊であったろうし、ワイス博士自身の守護・指導霊だったのだろうな、と今では思いますけどね。
目に見えない世界では、肉体に宿っている人間がまだ気づきもしないうちに、さまざまなことが実は行われている、霊の働きがある、ということの証明のような物語だと、わたしは思います。
エリザベスは初め、自分自身の心の悩みと、それは主として、愛する母を失ったことへの、あまりにも深い悲しみ、時が過ぎても癒されない、そうした悲しみに耐えかねて、ワイス博士のもとを訪ねたのでした。
『前世療法』を読んだエリザベスは、そこで登場したキャサリンのように、自分も前世において、母の前世と一緒だったのではないか、母とふたたび過去世退行体験で出会えるのではないか。そういう期待を持ちながら、訪問したわけです。
エリザベスの父は寡黙で、厳格すぎるほどの男性で、エリザベスはその影響で委縮した性格になってしまったようですが、愛する母のあたたかな愛情のお陰で、彼女は深い情愛を持った女性として成長できたようです。エリザベスは母のことをとても深く愛し、それゆえ、その母の死は彼女に、たとえようもないほどの深い喪失感を与えてしまったのでした。
エリザベスの母親は進歩的で、独立心の強い女性だった。彼女は暖かく愛情を注ぎながら子供を育て、一方では、エリザベスの自立心を育てるよう、配慮をおこたらなかった。
「母は天使のような人です」とエリザベスは続けた。「いつもそこにいて、いつも気にかけてくれ、いつも子供のために自分を犠牲にしていました」
エリザベスは母親にとって最愛の赤ちゃんだった。彼女は子供時代の楽しい思い出をたくさん持っていた。中でも最も楽しい思い出は、母親と一緒に仲良く過ごした時のこと、そして、二人を結びつけていた特別の愛情だった。しかも、それはずっと変わらぬものだった。
母は天使のような人です、という言葉に、このお母さんの優しさ、あたたかさ、情愛の深さなどを感じさせられます。
エリザベスは学業のために、実家を出て、別のところに独り暮らしを始めるようになったのちも、母との電話での会話を楽しんだそうです。深い魂の交流、語り合うことの喜びは、たとえ物理的な距離は離れていても、心は互いを近しい人として結び付けて話さなかったのでしょう。
帰れる機会があったら実家へ帰省し、母との会話を子供の頃のようにふたたび楽しんだ、とあります。
やがて仕事をするようになって、エリザベスは仕事でも成功を収めたようですが、そうしたある日のこと。
彼女が帰省していたある時、エリザベスの母親は引退したら南フロリダへ移って、エリザベスの近くに住みたいと話した。
(中略)
エリザベスは再び母親の近くに住めることを楽しみにしていた。彼女たちはほとんど毎日のように電話で連絡をとりあっていたが、近くに住めればもうそうしなくてもよいのだ。
母親は、農園の仕事をしなくて済むようになったら、自分がエリザベスの近くへ引っ越して、また仲良く過ごせたら、という願いを持っていたそうです。
それを聞いたエリザベスもまた、そうした暮らしが出来る日を楽しみにしていたのでした。
けれども、肉体生命の寿命には限りがある。母は病に侵されてしまう。すい臓ガンというのは、早期発見が難しく、亡くなってしまう率が圧倒的に高いガンですね。
エリザベスはできるかぎりひんぱんに、ミネソタに見舞いに行った。
そんな彼女への、母からの言葉。
「あなたと別れるのがつらいわ……愛しているわ」と母親は彼女に言った。「一番つらいのは、あなたを残してゆくことよ。死ぬのは怖くないわ。でも、まだあなたと別れたくないの」
愛する者との別れは、いつかは訪れる、この世ならではの悲しい出来事です。
その別れの日は、互いに思いもしない、そうした時に訪れてしまう。決して離れたくないと思っている、愛し合う者同士にとっては、どんな時に訪れたとしても、死による別れはそう容易く受け入れられるものではないでしょう。
愛が深いほど、別れの辛さ、悲しさは、絶え難いものとならざるを得ない。
母親の意識はだんだん不明瞭となってゆき、生への執着も薄れていってしまった、とあります。
そうしたある日のこと、ほとんど意識が目覚めることのなかった母親が、ふと目を覚ましたといいます。
… 意識はなかった。そんな間の一とき、エリザベスは母親と二人きりでいる自分に気がついた。その瞬間、母親は目を開き、もう一度意識を取り戻した。 「あなたのそばを離れはしないわ」突然、母親はしっかりした声で言った。「ずっとあなたを愛しているわ」 これがエリザベスが母親から聞いた最後の言葉だった。彼女はまたすぐ意識不明に陥った。
別れは避けられない。近いうちに、その時は来る。エリザベスも父親も、そのことは理解していたが、心がそのことを受け止められるかどうかは、また別の問題だ。
しかして、心の準備を待ってくれることもなく、運命の日はやってきてしまったんですね。
それからすぐに彼女は亡くなった。エリザベスは心の中に、そして、自分の人生に、大きな深い穴がぽっかりとあいたように感じた。実際、本当に胸に痛みを感じたほどだった。自分はもう、前のように完全に満たされることはないと彼女は思った。そして、何カ月も泣いて過ごした。
あまりにも深い喪失感。ほんとうに心から頼れる、愛することの出来る最愛の母を失ったエリザベスの、その心の空虚と深い絶望を埋めてくれる存在は、他にはいなかった。
母親の死後、エリザベスの不安感は非常に強くなった。彼女は最愛の親友であり、助言者であり、最も近しい友人を失ってしまったのだ。それは、自分を導き、守ってくれる最も大きな存在を失ったことでもあった。エリザベスは迷い子になって一人きりで漂泊しているように感じた。 そして彼女は、私の診察を受けるために予約をしたのだった。
エリザベスが私のところにやって来たのは、母親と一緒に過ごした前世を探し出し、神秘的な体験をすることによって、彼女と再会できるのではないかと期待したからだった。
エリザベスは、こうしてワイス博士のもとを訪れるんですね。