中学生の僕にしてみると ヤンキーは是か非かではない。

 

 それは、ただそこに存在しているものだった。

 

 インドで牛がそこら辺をうろうろして、電車を止めたりしているけど、かの地ではそれが当たり前の光景だ。   

 

 それとちょっと似ている。

 

 あのガラの悪い集団は 入学した時から学校にいたのだ。

 逆に言うと 僕には ヤンキーのいない中学生活はどんなものかということがうまく想像できない。

 街路に牛や 物乞いの人のいないインドをうまく想像できないのと同じだ。

 

 彼らが最初からずっとそこにいる以上 

 

 嫌だけど、・・・・まあ、こういうもんだべ!  てな感じだった。

 

 トイレは煙でもくもくしてるものだし、気を抜いて歩いてると すれ違いざま蹴られたりする。

 運悪くつかまると 餃子の王将にぱしらされたりする。

 

 そういうものなのだ。きっと世界が始まった時から・・・

 

 だからヤンキーなんていなくなればいいのに、、、という発想にはならなかった。

 環境というのは恐ろしいもんだな、と思う。

 慣れるとそれが当たり前になってしまう。 

 

 彼らが暴力的なことをするのは、人一倍目立ってしまっていたりする生徒に対してだったので、直接的な危険は僕にはなかった。

 それに、彼らは弱いものを陰湿にいじめたり、自殺するほど追い詰めたりすることはなかったようなので、ある意味わかりやすい存在ではあった。

 

 何しろ 髪がまっきっきだったり ダボダボのズボンをはいてたりして 見た目で危険だとすぐわかる。

 全身で 俺たち かなり やべーぞ! とアピールしてくれている。

 

 彼らは気に入らなかったら リンチするだけ(しちゃだめだけど)なので 陰でこそこそ悪口を言ったり 無視したり ということはする必要がない。

 

 まっきっきの集団が廊下の向こうから歩いてきたら 回れ右をすればいい話だ。

 

 しかし そうはいかない場合もある。 

 

 ヤンキー集団の中には

 

 幼稚園の時に 僕をいじめていた ケンタがいた。

 

 ムラサキ組とミズイロ組の2年間にわたり 意地悪をされていた僕は 卒園式の日に 思いっきり彼の足を踏んでやった。

 二年間いじめられてようやく仕返しができたのは、明日からもう会わないからだ。

 いわゆるイタチのなんとかというやつだが、その時初めて僕は やな奴に「逆らう」ことができた。

 

 それから11年の時を経て僕らは 再び このガラパゴス中学で相まみえることとなった。 

 

 彼は僕を見るなり 大声で 叫んだ。

 

 「お前 幼稚園の時 〇◎●(自主規制) 漏らしたやろーーーっ」

 

 「漏らしてへんわーーーーーーっ」 と僕は反射的に言い返した。

 

 ったく・・・・なんだこの低レベルの応酬は。

 

 確かにシャイすぎてトイレに行きたいとも言えず、教室で粗相したのはホントだ。

 

 でもなぜ11年も前のことで このような辱めを受けねばならぬのか。十分にトラウマになっているというのに。

 しかし ケンタ 

 意地悪そうなのは幼稚園の時からまったく変わってないじゃないか。

 むしろパワーアップしてるぞ。

 

 やっかいなやつと再会しちゃったな。。。。

 

 ケンタは時々 僕にちょっかいを出してくるようになった。

 

 ケンタがまったく理由もなく 僕の股間を蹴り上げてくる。

 そして逃げていく。

 僕は追いかける。「ひゃーひゃっ ひゃっ」と笑いながらケンタは逃げていく。

 逃げていくから 僕は追いかける・・・・どこまでも

 

 ケンタには追い付けず

 

 だいたい 僕が はあはあと乱れる呼吸と 大事な場所がズキズキしたまま休み時間が終わる。

 

 こういうことを時々繰り返していた。

 

 何も面白くない。

 

 しかしこの不毛なチェイスによって 僕が ヤンキーの集団から狙われることはなかった。

 

 多分ケンタが 個人的な意地悪心からやっていただけで、ヤンキーの集団は 特に興味がなかったのだろう。

 

 僕も 一応ヤンキーぽい身なりのケンタを追いかけたりできたのは 彼はただのヤンキーではなく、幼稚園の時から知ってる「宿敵」という認識があったのかもしれない。

 

 つまり、11年たっても 舞台を変えて 二人とも 園児と同じようなことをしてたという話しだ。

 こういうのをカルマと言うのだろうか。。。

 

 しかし ヤンキーの中には 嫌いじゃないヤンキーもいた。

 

 最初はすべて恐ろしく ヤンキーという集団はオールブラックにも見えた。

 

 でも彼らがそこにいるのが当たり前になってくると、その黒の中にも 微妙なグラデーションが見えてくる。

 

 左近クン というヤンキーはなぜか 「クーには そんなことするなよ」 と 他のヤンキーから 僕をかばってくれたことがあった。もちろん、蹴ったり 殴ったりされたこともない。

 

 なぜかばってくれるのかわからなかったが、そういうことがあると 好感度は急上昇し、左近クンは 黒の中の白に見えてくるものだ。

 

 他に 龍村というヤンキーが同じクラスにいた。

 

 僕は目が悪くよく目を細めていたからか、「お前目つきわるいんじゃあっ!」 と龍村に恫喝されたことがあった。

 

 龍村は背が低く、髪をつんつんに立てていて、多分普通にしてたら可愛い感じの、星の王子様がグレたような風情をしていた。

 明らかに何か家庭に事情がありそうな気配を漂わせていた。

 

 恫喝されたけど、僕はあまり龍村を嫌いにはなれなかった。

 

 ある時、他のヤンキーが 2,3人 教室になだれ込んできて 何かわめきながら席についている龍村を連れて行こうとした。

 龍村の何かが彼らの気に障って リンチしようとしてたのかもしれない。

 

 龍村は 逃げるでも 弁解するでもなく ポケットを両手に突っ込んだ ふてぶてしい態勢のまま前方を睨んでいた。

 そして特に抵抗するでも弁解するでもなく 引き立てられていった。

 

 何があったのかはよくわからない。

 その様子が 僕にはなにかとても男らしいものに見えた。 

 

 左近クンや龍村は ヤンキーという「黒」に属してはいるが 黒の中の黒ではない。何か白いところを持っている黒だ。

 中学生の僕はそんな風に認識していたかもしれない。

 

 そんな風に僕の中学の3年間は すぐ近くにヤンキーがいるのが当たり前の日々だった。

 

 中三のころ授業中に、社会科の教師とヤンキーが教室の床の上で 上になり下になりの乱闘を始めたこともあった。

 ヤンキーが黒板に板書してる先生にうしろからものを投げたのが原因だった。

 

 授業そっちのけでの取っ組み合いに

 おいおい、とは思ったけど さすがに3年間荒れた学校を見てきたあとでは それほど驚きもしなかった。

 

 あんなひどい中学に通っていた人はそうそういないと思う。

 

 でも ヤンキーもタバコの煙もない中学生活を送っていたら、きっとよかったんだろうけど、、、ちょっと物足りない気もする。

 

 あのどろどろした世界の記憶が ホメオパシーのように 僕の心の免疫を多少は強化してくれた気もするからである。

 

 しかし 僕が 週刊ジャンプの「ろくでなしブルース」やマガジンの「カメレオン」が あまり好きでなかったのは きっとヤンキーガラパゴス中学に通っていたせいだろう。

 

 ヤンキーにはリアルで 十分おなかいっぱいになったので 漫画であらためて読みたいとはとても思えなかった。

 

 

 

 ヤンキーガラパゴス中学は 現在では ごく普通にクリーンな 公立中学校になっているという。

 

 イグアナたちが気炎を上げて闊歩していた形跡は もうどこにも見当たらないだろう。