うちの父親は、だいぶ変わっている。

 

  まあ、一種の変人と言ってもいいかもしれない。

 

  父は非常にストイックだ。

  酒、ギャンブル、タバコ、といったものにはまったく手を出さない。

 

  趣味らしい趣味はないが、ニュースの時間になると必ずテレビをつける。

  よく世情を嘆いているが

  バラエティ番組を見て笑ってる姿は見たことがない。だいたいニュースか、Nスぺだ。

 

  知的好奇心は旺盛で、ノートパソコンを開いて ネットでしょっちゅう何かを検索している。

  パソコンや機械ものには詳しく、自分でデスクトップのPCを組み立てたりする。

  僕はそっちがまったく苦手なので、メカ好きDNAは遺伝しなかったようだ。

 

  グーグルのストリートビューを使って 犯罪現場を確認したりするのが好きだ。

  

  モノクロの海外映画 特にフランス映画が好きらしく、膨大な量のコレクションを所蔵しているようだが、はっきり言って映画を見ているところを見たことがない。

 映画鑑賞好きというよりも、棚に並んだラベルを見て満足するコレクターだということは自認してるようである。

 

  何かやむにやまれぬ用事がない限り ほとんど家から出ることはない。

  しかし、毎朝実家のリビングで、万歩計を持って8000歩分 その場ランニングをする。

    

  夜はテレビを見ながら だいたい20分は歯を磨いている。

  実家に帰省した時 僕が5分そこそこで歯磨きを終えると 「短い ちゃんと磨いてんか」と言われるので、なるべく長く磨くようになる。

  てか、大人になってまで歯磨きのことで注意されるのか・・・ と思うが。

  母も今では 父につられだいたい20分くらい磨いている。

  ちょっとかわいそうだ。

 

  父は無口ではなく、比較的話し好きだ。

  朝から夜まで 高めのテンションでしゃべっている。声も大きく、周りを巻き込むパワーは強い。

 

  そして 時々 言ってはいけないことを言う。

 

  少し前も 母に 「この結婚は失敗だった」 とか言い出して 母を家出させかけたらしい。

  

  母からその話を聴いて 僕もあまりいい気分はしなかった。

  間接的に自分の存在も否定された気がした。

 

  結婚したての30代とか 40代のセリフならまだしも 二人ともとうに60を越えた今 今更そんなこいうかね? と思うが

 

  父親ならぽろっとそういうことを言ってしまうだろうな とも思った。

 

  何か頭の歯車が常人と違うかみ合い方をしているのだ。

 

  僕も子供の頃は そんな父の心ない一言にずいぶん傷つけられた。

 

  しかし 父は 何かのスイッチが入ると 突然 いいことを言う。

 

  僕が中学に入学するときだっただろうか。

 

  最初の登校の日に 家を出るとき、父がうしろから僕に言った。

 

  「・・・笑顔の数だけ 友達ができるぞ」 

 

  ええええーーーっ 何その昔の学園モノドラマみたいなさわやかなセリフ!!??

 

  励まされたとかいうよりも いつもの父親の言動との ギャップがありすぎて 記憶に残っている言葉だ。

 

 

  最近も実家に帰った折り ここ数年 私生活でいろいろあった僕を知ってる 父は

 

  「・・・生きてる限り 希望はあるぞ」 と僕に言った。

 

  ちょっとうれしくもあったが、この同じ口が 母に「この結婚は失敗」とか言うんだもんな~この人の頭どういう配線になってるんだろうとも 正直思う。

 

 こんなこともあった。

 

 僕が7,8歳くらいの頃 テレビの特撮ヒーローものをよく見ていた。

 

 その番組のテーマソングに 「命 それより大切なものが 俺にはあるからさ~~♪」という歌詞があった。

 

 命より大切なもの、という言葉が心に残り、命より大切なものってなんだろうと 考えていた。

 

 仕事から帰った父に尋ねてみた。

 

 「命より大切なものってある?」

 

 すると即座に

 

 「お前らや」

 

 と父が答えた。

 

 僕はその答えに何も言えなくなった。

 子供ながらに 父が とても重みのあることを 今言った というのがわかったからだった。

 

 父自身 多分 そんなことを言ったことを忘れているかもしれない。

 

 でも 僕はずっと覚えている。

 多分それは 父の本心から出た言葉だったからだろう。

 

 傷つけられた記憶が それですべて埋め合わされる訳ではない。

 

 でも 僕は その言葉を覚えていることができてよかったと思う。

  

 本当の言葉は 多分 時間を貫き通して残るものなのだろう。

 

 

 今頃 父と母は テレビを見ながら並んで 歯を磨いている時間である。

 今日は父はいったいどんなことを喋りまくっていたんだろうか。

 異常気象の増加や 政治への不満 あるいは子供たちの心配のことだろうか?

 

 母にも たまにはいいこと言ってあげてるといいな と願う。