会長が前方に立っている
電子音が鳴る
身体をスキャンする音
音声案内が響く
「イクシマ ツバサ ヒガシ 77ガイク 118
ショクギョウ キョウシ」
会長 ・・・
夢に入り込む音
後方に魔王の姿
会長 イクシマツバサ・・・久しぶりだな。
魔王 憶えていたのか?
会長 実の息子だ。
魔王 笑わせるな。
会長 何の用だ?
魔王 別に用などない。世界が崩壊する前に興味が湧いただけだ。
たった一人の肉親がどんな面をしているのか。
会長 実際に会ってみてどうだ?
魔王 理想とはかけ離れていたよ。
会長 そうか、それは残念だ。おまえは素顔を見せないのか?
魔王 これが俺の素顔だ。
会長 ネバーランドと同じ顔か。
魔王 過去を誰にも知られることなく、常に仮面をつけて
生きてきた。俺に本当の顔などない。
会長 悪いことをしたと思っている。
魔王 そんな言葉、信じるはずないだろう。あんたは欲望の中に
生まれ、欲望の渦の中に消えてゆく人間だ。
会長 欲がなければ他人とは戦えない。
魔王 そうだな。欲望をとるか、愛情をとるか、人が生きていく
ために持つべきものは、どちらかひとつだ。
魔王、会長に背を向け後方に歩いていく
会長 ツバサ。
魔王、立ち止まる
会長 最後に一度だけ「父さん」と呼んでくれないか?
魔王 ・・・俺に、父さんはいない。
夢から現実に戻る音
魔王、出て行く
会長 ・・どちらかひとつ・・おまえは愛情をとったか・・・
会長、杖で床を叩く
井沢が出てくる
会長 井沢。
井沢 はい。
会長 ツバサの定期預金を解約しておけ。
井沢 本当に良いのですか?
会長 ・・愛情は金じゃ動かん。
井沢 ・・かしこまりました。早速手続きを。
井沢、出て行く
会長 たった一人の息子もろくに育てることができんとは・・
父親失格か・・
会長、歌を口ずさむ
会長 揺れる花が 飛んでゆくのは夢の中 掴み取る
手のひらの色は 君の行き先・・・
30へ続く