現実から夢の中に入る音

       社長が入ってくる


社長   ・・・


       魔王が入ってくる


社長   ・・メインランドのプロジェクトは中止にしました。

     夢をビジネスとするネバーランドの事業からも撤退する予定です。


魔王   空間はもう歪んでいる。修復不可能だ。


社長   いいえ、それくらいの修復プログラムはあらかじめ用意しています。


魔王   さすが、俺と違って出来がいいな。


社長   あなた個人が作成したアクセスプログラムを解除すれば、

     ネバーランドは完全に消失します。


魔王   ・・俺に夢の中から出て行けと?


社長   はい。


魔王   ふざけるな・・おまえには俺の人生のひとかけらもわかるまい。

     泥沼に這いつくばって生きてきた苦しさなど・・・


社長   ・・・


魔王   チョコレートは好きか?


社長   ・・いえ、私はあまり。


魔王   ・・子供の頃、公園で知らない男にチョコレートを貰った・・

     それが唯一俺の幸せな思い出だ。


社長   ・・・


魔王   口に入れたときは甘くてシアワセな気分になるが、溶けてしまえば

    何も残らない。「甘くて美味しかった」という思い出だけだ。でもな、
    他には何もないんだよ。俺はその思い出にすがり、そこからいくつも
    の想像を繰り返しながら生きてきた。今でもチョコレートを食べれば
    自分で創り上げた実体のない素敵な甘い思い出だけが口の中に広がる
    よ・・・


社長   ・・君の人生を奪い・・申し訳ないと思っている・・


       魔王、社長を殴り飛ばす

       レオン博士達とカッパ達が入って来る


モジャ  やめろ!


       魔王、全員に次々と襲いかかる

       次々現実から夢の中に入る音

       子供達と金城達が「先生!」と呼びながら全員入って来る


魔王   ・・・


タカシ  生島先生!


恵美   先生には私達がいるでしょう?


       生徒達、口々に「先生」と呼びかける

       成美が入ってくる


成美   生島先生・・思い出なんてこれから作ればいいじゃないですか

     ・・どんなに過去が辛くて悲しいものだったとしても・・先生
     には「今」があるじゃない!


小百合  そうだよ、先生まだ若いし、楽しいことなんてこれからだよ。


桃香   また素敵な音楽を教えてください。


タカシ  先生・・


樹里   先生・・


魔王   ・・・


       子供達、魔王を囲むように少し歩み寄る


真由   先生がいつも歌っていた歌。


樹里   この歌は、悲しい歌なんかじゃないですよ。


       「眠りの街」の前奏が流れ始める


金城   「帰省パスワード」・・


魔王   ・・やめろ・・


未来   届けー!


       「眠りの街」を子供達が歌い出す(大合唱)


  (A)揺れる花が 飛んでゆくのは 夢の中  

     掴み取る 手のひらの色は 君の行き先


  (B)どうして どうして いなくなったの 

     あの日の 思いが また甦る


  (A)いつも見る 夢の続きには 何があるのかな?  

     掴めない 手のひらの中には 揺れる記憶


  (B)春夏 秋冬 思い出想う     

     忘れたい 忘れない あなたに眠る


  (B)窓から 零れる 月明かりに誘われて       

     未来へと 続く道を 走ればいつかは僕も変れるの?


       (転調)


  (A)辿り着いた 夢の先には 涙の欠片

     悲しみも 苦しみも全部 一粒の水


  (A)許されるなら 逃げ出したい あなたの過去は

     笑うために あなたが見た 鏡の世界


       間奏


       間奏中に生徒達が魔王に呼びかける


子供達  先生!


魔王   ・・・


子供達  先生!歌え!


       子供達の声で間奏が終わり、魔王、曲調が優しくなった

ラスト部分を歌う


魔王   ・・・愛 夢 希望 未来 星降る夜空に・・・


全員   愛 夢 希望 未来は 降りそそぐ


魔王   ・・・眠れ 眠れ 眠りの街 僕は星空の下で生きてゆくから・・・


       魔王の悪夢が割れ、中から希望の雫が溢れ出る音

       後方から眩い光が魔王を包む

       魔王、ゆっくりと手を広げ包光に消えてゆく

       ヤワラカク眩しい光に変わると、魔王が立っていた場所に

     生島が倒れている





             34に続く

























































井沢達  ヒャーハッハッハッハッハ!

レオン  現実が見えたぞ!

       リサ・王子・マキタ、拳銃を抜いて発砲する

       井沢も拳銃で反撃

       鳴り響く銃声と同時に夢が消える音

       ピエロとキコリが消える

井沢   ・・・

金城   ・・わざわざ金を払ってあんた達に頼らなくても・・

僕達は夢を見ることぐらいできるんだよ・・

井沢   ・・邪魔するな!

       井沢、発砲して出て行く

       王子とマキタ、追って出て行く

彩夏   ・・空が少し晴れてきた・・

ツルリン ネバーランドにくっついていたもうひとつの夢が消えたんだ。

モジャ  新しい会長が眠りの街、メインランドのプログラムを消去したか・・

レオン  これで子供達が操られることはないでしょう。後は・・・

金城   ・・彼はまだ、一人で夢を見ている・・生島先生の心を悪夢から

開放させなければ。

未来   どうやったら先生、戻ってきてくれるかな。

レオン  パスワードを解くしかない。

リサ   パスワード?

ユウリ  他人が夢から本人を連れ戻すための唯一のプログラムです。

レオン  このプログラムだけは、どんな天才ハッカーにも絶対に

やぶられん。たぶん。

ユウリ  ネバーランドに身分を登録する際、認証パスワードの他に

「帰省パスワード」という200文字以上のパスワードを

登録しなければならない。

未来   200文字?

金城   確かにそうだったな。あんなの憶え切れないけど。

でもどうして「帰省」って名前のパスワードなんですか?

レオン  どんなに夢の中の世界が心地よい世界だとしても、我々人間の

故郷は現実の世界にしかない。利用する人間には、どんなに狂った

ようにネバーランドに入り浸ったとしても、最後には現実に戻って

きて欲しい。いや、戻らなければならない。

モジャ  あんた、なかなかいいことを言うけど・・

ツルリン だったらなんでパスワードが200文字以上なんだ?

リサ   とてもじゃないけど解読できない・・

レオン  これは他人が本人を連れ戻すためのパスワードだ。

簡単に解読されては困る。

そいつを心から思い、「そいつのために連れ戻す」という

信念がなければ解けないものでないと逆に犯罪性が増してしまう。

カッパ  確かにな。

リサ   でも200文字はちょっと・・あ、そのパスワードって、ドリーム

キャッチ社のデータベースで調べればすぐに分かることじゃない?

ユウリ  無理です。帰省パスワードは登録完了後本人の脳に記憶され、

その直後に消失してしまいます。

リサ   消失って・・

レオン  最後の望みだ。人が人と繋がるための証拠を残しておきたかった。

そいつのことを本当に思えば200文字のパスワードなんかすぐに

分かるはず。ちゃんと本人を思う人間達が連れ戻してほしい・・

リサ   ・・・

未来   ・・私、本当に心から戻ってきて欲しいと思ってるよ。

金城   僕もそれは変らない。

彩夏   私も。

レオン  ・・じゃあ、簡単だ。200文字以上となれば逆に適当な

パスワードは作らない。ほとんどの人間は何かしら自分が

覚えている文章を当てはめるはずだ。

モジャ  それは言えてる。俺だって好きな本の一部からコピーしたよ。

ツルリン 俺は忘れられない言葉を繰り返し入れたな。

カッパ  彼の心の支えとなっているものは・・

彩夏   先生の心の支えになっているもの・・・

レオン  彼が癒されているもの・・

金城   僕は好きな歌の歌詞をパスワードにしたけど・・

彩夏   ・・それだ。

金城   ・・歌?

彩夏   生島先生は音楽の先生です。それに、いつも何かの歌を歌ってる・・

金城   そうか・・・

レオン  何かの歌の歌詞か・・・

       未来、歌を口ずさむ

未来   揺れる花が 飛んでゆくのは 夢の中 掴み取る 

手のひらの色は 君の行き先・・

金城   それ・・よく耳にするメロディだな・・

未来   ・・この歌だよ。

彩夏   生島先生が好きな歌・・・

未来   先生がいつも口ずさんでいた歌・・

金城   思い出の歌・・

未来   ・・・「眠りの街」。

ユウリ  「眠りの街」・・

レオン  メインランド・・眠りの街・・

未来   私達生徒が憶えてしまうほど、いつも歌っていた曲です。

この歌は「嫌な思い出を唯一忘れさせてくれる」って言ってた。

金城   きっとこの歌だけが生島先生の支えだったんだ。過去を隠し

誰にも本心を見せないままこの歌を支えに生きてきたんだ。

未来   みんなで先生を助けてあげようよ。私達の声が届くかどうか

わからないけど、みんなで歌おうよ・・

金城   最後のチャンスだ。力を合わせれば思いは届く。

未来   私、みんなを呼んでくる。

       未来、出て行く

リサ   未来!

       リサ、一礼後、未来を追って出て行く

金城   僕達も生徒達を。

       金城と彩夏、出て行く

ユウリ  二手に分かれましょう。

レオン  カッパトリオはあっちな。

カッパ  誰がカッパトリオじゃこら。

ツルリン ハゲですから。

モジャ  ロンゲもっさもっさですから。

レオン  まだ境界線は修復されていない。せいぜい気をつけるんだな。

カッパ  わかっとるわ。

       レオン博士とユウリ、カッパ達、出て行く





                33に続く

皆既月食でしたね



天気もよく



はっきりと見ることができました




まだ小学生の頃かな



月食の夜は



外に出ると近所の人達も空を見上げていた





今日外に出ると



星空の下には僕一人だった




いつから人は空を見上げなくなったのだろう・・・




下ばっかり向いてないで



もっと もっと



人は空を見上げて




見上げて




・・・

       ピエロとキコリが出てくる

ピエロ  またまたお会いしましたね~。

キコリ  ようこそメインランドへ!

マキタ  おうおう来やがったな!

王子   今度こそ逮捕してやる!

カッパ  駄目だ!相手の夢に呑まれるな!

ピエロ  あ、落ち武者だ。

カッパ  誰が落ち武者じゃこら!

ツルリン 挑発に乗るな!

キコリ  今度はゲーハーが出てきたぞ。

ツルリン 誰がゲーハーじゃヒーハー!

       モジャ、自分を見失った4人に向って

ロングドロップキック

       マキタ達が受け止めながら倒れる

ピエロ  ちょっとちょっとあの男せっかく生えてきたツクシに

薄汚いロンゲが絡みついてるわよ奥さん。

キコリ  あらやだツクシさんが息苦しそう。

ピエロ  あんな男とは同じ空気を吸うのもいやよね~。

       モジャ、ロンゲで顔面を覆って

モジャ  あ~、何も見えな~い。何も聞こえな~い。

カッパ  ロンゲが役に立ってる~。

キコリ  こしゃくな!

       ピエロとキコリ、カッパ達に襲いかかる

       カッパ達、「見えな~い」と言いながら攻撃をかわして出て行く

       ピエロとキコリも追って出て行く

       子供達が四方から一気に出てくる

       

タカシ  進めー!

       奥からレオン博士とユウリが出てくる

       子供達、博士達に向って行進

レオン  ・・こっちも駄目だ!

       博士とユウリ、出て行く

       下手から金城と彩夏が出てくる

       子供達、金城達に向って行進

彩夏   ・・・先生・・もう無理・・

金城   現実の世界が見えるまでとにかく逃げ続けるんだ・・

       金城と彩夏、出て行く

       上手から中央にリサと未来が出てくる

       子供達、リサと未来を囲んでグルグル回る

未来   ・・お姉ちゃん・・

リサ   大丈夫・・これは現実じゃない・・相手が仕掛けた夢よ。

       奥以外の四方からレオン博士・ユウリ・金城・彩夏・

モジャ・ツルリン・カッパ マキタ・王子が入ってくる

子供1  今、世界は破滅に向っている!

子供達  そう!破滅に向っている!

       奥にピエロとキコリが出てくる

ピエロ達 ジャンジャン!

       子供達が金城達に直接問いかけるように動き喋り

金城達は翻弄される

子供2  我々子供達が立ち上がるのだ!

子供達  そう!今こそ立ち上がるのだ!

ピエロ達 ジャカジャン!

子供3  世界は終わりに近づいている!

子供達  世界は終わりに近づいている!

ピエロ達 シャウエッセン!

カッパ  これは相手の夢だ!

子供4  人類を救うのは未来ある私達子供だ!

カッパ  自分だけの夢を見ろ!

       金城達、目を閉じて空を見上げる

子供達  さあ!一緒に敵をやつけよう!

子供5  君のパパとママも待ってるよ!

未来   パパとママが?

子供6  そう!君が来るのを待ってるよ!

未来   違う!私の夢は・・私の夢は!

       夢から現実に戻るヤワラカナ曲

       子供達、金城達が空を仰いでいる間にゆっくり消える

       ピエロとキコリの間に井沢が出てくる

       井沢・ピエロ・キコリが笑う



                  32へ続く

       電子音が鳴る

       音声案内が響く

     「セキュリティ カイジョ」

       ドアが開くスライド音

       社長・王子・マキタ・カッパ・ツルリン

モジャが入ってくる

会長   ・・一歩遅かったようだな。君達が探している人間は

先ほどこの空間から消えたよ。

社長   やはりここへ来たのですね。

会長   輝・・

社長   ・・・

会長   今日で会長という立場から身を引く。あとはおまえが

好きにやれ。

カッパ  逃げるつもりか?

会長   私は今日この日が、今まで生きてきた中で最も幸せだった。

マキタ  世界をめちゃくちゃにしておいて・・

王子   幸せだったとはいい気なもんだ。

会長   私は、ネバーランドという夢の世界が本当に人間を救って

くれると信じていた。

モジャ  人間にもうひとつの世界なんていらなかったんだよ。

ツルリン ネバーランドは計画の段階から狂っていた。

会長   武器を手にして平気で人を殺す世の中のほうが狂って

いるとは思わないのか?

社長   ・・・

会長   人間に優劣と将来の値段をつけ、自分の名誉のために、

企業の繁栄のために、人を物のように売買する現実の世界が

狂っているとは思わないか?

マキタ  あなたご自身がそうやって生きてきた。

会長   そうだ!

マキタ  ・・・

会長   私は自分に気づいたんだよ。だから、実の息子のために

ネバーランドを創った。悲しい過去など忘れて、自分の

望みどおりに生きていけるように・・

社長   では、やはりメインランドもその方のために・・

会長   メインランドは眠りの街、夢の中で眠り、夢の中で夢を

見ることができる街。忘れたくても夢に出てくる過去を

完全に消すことができる街。自分の存在を消せる、究極

の新しい街だ。

社長   ・・・

会長   ・・償いのつもりだった・・しかし、それも間違いだったと

気づかされた・・魔力で叶えた願いで、人はシアワセにはなれない。

   戦闘機が飛ぶ音、ミサイル・爆撃の音が響く

        全員窓の外に目を向ける(前方)

会長   あの空間は夢だ。夢の中でも戦争をしたがる連中がいるとはな・・・

        会長、戦闘の音が響く中、後方に歩いていく

        会長、振り返らずに立ち止まる

会長   ・・救ってやってくれ・・あいつは、現実でも自らが創り上げた

悪夢を纏っている。悲しみと恨みに包まれた独自のプログラムだ・・

悪夢のプログラムを解いてやってくれ・・

社長   きっと・・彼らの周りにいる仲間や教え子達が救い出します。

会長   ・・人生は欲望と愛情のどちらかひとつ・・あいつは愛情を選んだ。

        会長、拳銃を取り自分の頭に向ける

社長   父さん!

       社長、会長のもとに走る

       銃声

       同時に夢と現実が混ざる音・照明

       戦闘の音が激しくなり空間が歪む

       会長と社長の姿は消え、賑やかな曲が流れ始める





               31へ続く