今回ご紹介するのは,第3のアルカナ,『女帝』です。

 

 このカードは,一帝国の女性支配者,皇帝の后(皇后),あるいは地母神を象徴しています。

 第2のアルカナの『女教皇』には聖母マリアのイメージが重ねられていましたが,このカードはもっとストレートに『母親』をイメージし,さらに豊穣や繁栄といったものも想起させます。

 

 

 

【ヴィスコンティ版の女帝】

(画像はこちらのサイト様から拝借)

 

 「女帝」の特徴は,手に持った盾ですね。

 描かれているのはヴィスコンティ・スフォルツァ家の紋章である「黒鷲」です。

 

 

 中世ヨーロッパでは,貴族の間で馬上槍試合が盛んに行われており,鎧に盾を構え槍を持って馬にまたがり,対戦相手が落馬するまで戦います。

 

 出場選手は鎧を身に纏っているから,誰が誰だかわからない。

 だから,その目印として盾にマークを描き,識別をすることとしました。

 これが,貴族の紋章の起源になりました。

 

 

 黒鷲は,ヨーロッパ貴族の間で紋章によく用いられたモチーフです。

 神聖ローマ帝国の紋章も黒鷲です。

 そもそもヴィスコンティ家の黒鷲の紋章も,神聖ローマ帝国皇帝ヴェンツルから下賜されたものです。

 

 

 ヨーロッパにおいて,鷲は知性・精神を象徴するものであり,必ず地を這うもの(カエルや蛇等)とセットで描かれます。

 これもお決まりの構図で,精神と肉体の結合を意味しています。

 また,鷲は錬金術においては「空気」「揮発化」「作業中に使用された酸」を意味します。

 

 

 

【マルセイユ版の女帝】

(画像はこちらのサイト様から拝借)

 

 

 

 右手に持っている盾の鷲の紋章も,左手に持っている王笏も,神聖ローマ帝国皇帝のシンボルですね。

 また,青いドレスに赤い上着という出で立ちは,キリスト教画では聖母マリアによく見られます。

 

 

【ウェイト版の女帝】

(画像はWikipediaから拝借)

 

 ヴィスコンティ版やマルセイユ版とは異なり,ウェイト版の女帝は,「天界の女王」を象徴しています。

 12個の星がついた冠は,聖母マリアのアトリビュートであるとともに,黄道十二宮を表しています。

 

 

 手前の黄色い稲穂のようなものはとうもろこしのようです。

 洋服の模様として描かれた果物とあわせ,豊穣を象徴しています。

 つまり,この女帝タロットは大地母神としての女性性をも象徴しています。

 

 

 ウェイト版の女帝が持つ盾は,黒鷲の紋章ではなく,西洋占星術における金星の惑星記号【♀】が描かれています。

 金星は,惑星の中では地球の隣を公転し,非常に明るい惑星です。

 日本でも,朝方に見える金星を明けの明星,夕方に見える金星を宵の明星とよんだりしますね。

 その輝きから,金星を美と愛の女神ヴィーナスと呼ぶようになりました。

 

 ウェイト版の女帝は,つまり女性の愛(エロスとアガペー)を象徴するものとして描かれています。