隣にあった温もりがなくなったと思って目を開けたら、彼がなんとも言えない表情で固まっているのが見えた。
ぼんやりとした頭が徐々に覚醒していき、ああ昨日コイツと寝たんだったと思い出す。
 




何がスイッチだったのかはわからないけど、気付いたら押し倒されて深いキスが始まっていた。
このまま流されてしまっていいのかどうなのか考えようとしたけど、求められていることが嬉しくて身を委ねてしまった。
それでも、男とするのなんか初めてだろうヤツに明るい中で身体を見られるのは抵抗があった。しかも今、俺の身体には色々痕が残っている。
サッと服を脱がしていく彼に電気を消してくれと頼むと、真剣な表情で『なんで?』と聞いてきた。

『なんで、って、気になるだろ。わかれよ』
『だって見たいじゃん、ちゃんと』
『見てどうすんだよ。男だぞ』
『だから?』
『……』
『すげえ綺麗だよお前』

熱っぽい瞳で見られ、身体中を撫でられキスを落とされて俺はもう何もできなかった。
耳に届く自分の声が信じられないくらい甘くて、自分の気持ちが伝わってしまいそうな気がして唇を噛んだ。
そのたびに優しくキスをされて何も考えられなくなっていく中で、これは絶対にこれきりにしないといけないという思いだけは強く心に刻んだ。






「……おはよ」
「…………はよ」
 
どこか不安そうな瞳。
お前が気にすることなんか何もないんだよ。
俺は昨日、お前に救われたんだから。
 
「……いろいろごめん」
「ホントだよ。いてーんだよ。加減考えろよバカ」
「え?まだ痛いの?」
「痛いんだよこっちは!動けねえからメシ買ってきて。腹減ったから早く」
「ああわかった。ごめん」
 
急いでベッドから出ようとした彼の腕を引っ張ってやった。
 
「お前さ、いつもあんな感じで抱いてんの?だから女と続かないんじゃないの?」
「はあ?!」
「ははっ。図星か」
「ちげーよ!全部俺から振ってんの!!」
「わかったわかった。わかったから早くメシ!」
「……っ、この野郎……」
 
彼は床に散らばっていた俺の服をベッドに投げつけて部屋を出て行った。

これで俺たちは友達だ。
安堵なのか何なのかよくわからない感情が押し寄せてきて、枕に顔を埋めた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
家に帰ると、『ごめん』と書かれた紙がポストに入っていた。額面通りにとりたいところだったけど、もしかしたらと思うと少し怖くなった。
家に長居する気になれず、簡単に荷物をまとめてその日は漫画喫茶に泊まった。実家にはどうしても帰りたくなかった。
迷った末に翔に相談した。友達でいようと決めたくせに傍にいようとするなんてどうかしていると思ったけど、状況が状況だしと自分に言い訳して彼の優しさに甘えることにした。





流れで居候することになったものの、俺たちの関係は友達のままうまくいっていた。
ライブハウスにもクラブにも一緒に行ったし、バンドのメンバーとの飲み会にも行った。みんな本当に気の良い人ばかりで、一緒にいるのは楽しかった。
バイト先のツテで手に入れたミスチルのコンサートにも行った。感動して思わず泣いてしまって隣を見たら彼も泣いていて、その日はそのままカラオケに行って朝までミスチルを歌った。
家でも居酒屋でもレコード喫茶でも、好きな音楽の話とライブやコンサートの構成の話とStormの話を永遠としていた。
 




「あの日」の話は、ふたりともしなかった。
どんなに酔っ払ってもキスひとつすることはなかった。
 
 
 
 
 
友達なんだから当たり前のことだ。
 
「あの日」が例外だっただけ。
 
 
 
 
 
もう何も残っていない自分の首筋を見るたび、「あの日」なんて本当はなかったんじゃないかと思った。